「やっなぎぃ〜!!」


事件のあった次の日。
朝っぱら、元気いっぱいに、柳家の門の前で叫ぶ声がした。


ガラガラッ

くぐり戸の戸が開くと、丸井 は戸を開けた自分よりも少し背の高い少女に飛びついた。


「柳っ!!おっはよぉ…ん?」

何かがおかしい。
そう思った は顔をゆっくりとあげると薄茶色のショートカットの女の子があきれ顔で自分を見ている。
は慌てて少女から手を離すと大慌てで謝った。

「す、すみませんっ!!!!失礼しました!!友達と似ていたモノで…」

「アレ?丸井とわたし、友達じゃなかったの?」

「嫌だなぁ〜。柳はあたしの大親ゆ…っ柳?!!!!!!!!」


は目の前の出来事に再び絶叫した。

「うん。おはよ。」

「うえぇぇっ!!実は柳家は朝と夜では髪の毛の色が変わる特殊能力者っ?!!柳先輩も今頃金髪にっ??!!」

「なってない、ない。」

「ど、ど、どうぢちゃったのっっ!!やなぎぃグレたぁっ???!」

「グレてない、ない。」

「ぅえぇぇっ…じゃ、じゃあ、何かあったの??…まさか仁王ちゃん?!!」

「あぁ、うん。」

「仁王ちゃんの彼女となるためには、やっぱり普通の髪の毛じゃいけないと思ったんだね!!」

「いや、別に。第一彼女じゃないし。」

「仁王ちゃんの髪の色なんて気にしなくていいんだよ!!あの人なんか地毛じゃないんだから!!!絶対っ!!!」

「朝っぱらからうざいの。お前はブン太とでも登校しんしゃい。」

「あ…」

噂をすれば影。
大暴走の の頭を仁王は軽くどついた。


「出たなっ!!仁王ちゃんめっ!!お前、彼女の髪の色がこんなになっちゃって、なに平然としてんだっ!!!」

はそう怒鳴ると、拳を仁王に思いっきり振った。

「痛っ!…お前、こっちは怪我人じゃよ。少しは手加減せんかぃ。」

「あ…あわわ…ゴ、ゴメン。でも、それどころじゃなくて。や、柳の髪がっ!!」

「あぁ、俺がやった。」

「あ、なんだぁ〜。そっかぁ…って、ハァァッ?!仁王ちゃん、なに考えてんの!!あたしの柳にっ!!」

「俺のじゃ。」

「いや、どっちのでもないし。」

「柳はねっ、わざわざ染めたりしなくても地毛が綺麗なのにっ!!もったいない事しやがってっ!!!」

「人の事言えないじゃろ。お前だって、髪染…」

「なわわわわっ!!!!」

「… 。もしかしてお前、まだあの事 に話してないのか?」

「あの事?」


その言葉に、明らかに動揺した様子の は、わざとらしくオーバーリアクションでベラベラしゃべり続けた。


「なぁ〜んの事でしょうかねぇ?あたしに秘密なんかあーりませんヨ。あたしはいつでもオープン丸井ちゃんサっ!!」

「…やってられん。 、バカは置いてさっさと登校するぜよ。」

「そーだよ、柳ぃっ!!バカニオなんかホッといてさっさと登校しよーぜっ!!」

はそう叫ぶと、ぐいぐいと の左腕を掴み、早足でその場を去った。

「… も、そろそろ…かの。」

















「まったく、ヒドイよねっ!!仁王ちゃんてば、勝手に…」

は、ぷんすかぷんという様子で雅治先輩にそうとうご立腹の様子だった。
でも、髪を染めてくれたのは確かに雅治先輩だけど、別になすがままにされたわけではなく、むしろ…

「勝手じゃないよ。私の意志。」

「へ?それって…」

がそう言いかけたと同時に、 がガラッと教室の戸を開けると一瞬でどっととざわめきが起こった。
皆、物珍しげな顔で に注目している。
それもそのはず。
優等生。真面目ッコ。無愛想。無口。登校拒否問題児。
そんなレッテルを貼られている彼女が、
一夜で、トレードマークともいえる『漆黒の長髪』を『ブロンドに程近い薄茶のショート』に変えた。
それだけで注目の的であった。


「…柳。どうしたんだ。その頭は。」

HRに入ってきた担任の長谷川先生が、ぎょっといた顔で の頭をみた。
、それに赤也の担任であり数学担当の女先生。
生徒から人気が高く、親しみやすさから長谷ちゃん≠ネんて呼ばれてる。
は真顔でそんな長谷川先生の問いに答えた。

「昨日、頭からオキシドールを被ってしまい髪が焼けて変色しました。事故による不慮の怪我です。」

「そうかー。なら仕方ないな。」

「って長谷ちゃん!!んな事あるわけないっしょっ!!!!!!!」

にまっと笑った長谷川に は思わず大声を上げて否定した。
その言葉を可笑しそうに長谷川は見返す。

「まーるーい。本人がそー言ってるんだからそれでいいじゃない。」

いいのかよっ!!<Nラス全員が心の内で叫んだ( 含む)が、長谷川先生はニコニコしている。


「柳が珍しく自己主張してるんだ。ホントだよ。それよりも〜」

「な、なに?」

つかつかと長谷川先生は、 の席までやってくると、 の頭を力いっぱいわしゃわしゃした。

「お前のほーが問題児だろうがっ!!毎度数学さぼるな!!」

「わわわ、長谷ちゃん!!痛!!痛!!」

ドサッ

「こ、これは…長谷ちゃん…まさか。」

痛がる の机に分厚いプリントが置かれた。

「丸井用特別課題。明日からの三連休中にやってくる事。忘れたら数学の単位やらないからな。」

「ひ、ひどーいっ!!横暴だぁ!!校内ぼーりょくー!!訴えてやるぅ〜!!」

絶叫した丸井の声は、予鈴のチャイムと共に校舎中に響き渡ったのであった。





















「うぅぅ…絶対…はぐ…終わん…はいよ…ほえ…」

お昼休み。
屋上の雲を眺めながら は嘆いた。


うぜぇ…。食うか、泣くかどっちかにしろぃ!」

「泣いてても…っ…おなかはすくんだもん…ぅぐっ…」

そういいながら は弁当箱のサンドウィッチを頬張る。
少し言いずらそうに に言葉をかけた。

「丸井。あのさ、さっきから思ってたんだけど中学は義務教育だから単位関係ないよ。」

「…え、あぁぁあっ!!!!!騙されたっ!!!!!!!!!」

「ばかだな。」

「馬鹿じゃろ。」

「…バカ。」

「ま、またいぢめる〜っ!!誰もあたしの数学を助けてくれないんだぁ…わぁぁんっ!!!」

「誰もそんなコト言っとらんじゃろ。」

「俺は手伝わねーぞ。」

「ぁぁあ〜、どーせバカの丸井ちゃんは中学生なのに単位を落としてしまえばいいさっ!!」

は大泣きしながら、床に顔を伏せた。
その様子から、 はハァと小さくため息をつき、 の頭を軽く叩いた。

「…手伝ってあげようか。数学。」

「…!!柳っ!本当っ!!もしかして、数学…」

「うん。得意だよ。」

がそう告げると、 は両手万歳しながら思いっきり飛び跳ねた。
その勢いに、屋上に止まっていた鳥が二、三羽バッと飛び去っていった。


「わしょ〜いっ!!!柳ありがとぉ〜!!」

「いえいえ。」

「じゃあ今日はカレーだね、仁王ちゃん。」

「そーじゃの。カレーが無難じゃの。」

「そーだな。ケンもカレーなら文句言わねーだろうし。」

「よぉっし〜!!!柳と初めてのお泊り会☆やったぁ〜!!」

「ん?え…はぃぃ??」


こうして唖然としている を他所に、丸井家強化合宿が開催される事になったのであった。
そして、これがこれが幕開けになる事をこの時、誰も予想しなかったのである。








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次はいよいよ丸井家へ。

2005年02月16日 克己