アラジンはランプの精の力で三つの願いをかなえてもらいました。
もし、願いが叶うなら貴女は何を望みますか?





穏やかな元旦の正午。
ちぎれた雲がゆらりと風に流れ、陽の光はやんわりと大地を温めていた。
年始参りに行く親子連れやカップルが道端に少々残った残雪にはしゃいでいる。
そんな正月雰囲気Maxな世間とは裏腹に は、台所から甘いバニラの香りを漂わせていた。


「えへへ〜。元旦から営業の上、セールしてるなんてスーパーは偉いよなぁ。おかげさまで卵特売で買えてし・あ・
わ・せ☆」


プリンカップがオーブンの中でゆっくりと温まっていた。
幸せそうなオーブンの中を見つめながら は小声で秒読みする。

「うわぁ。我ながら天才的☆…5、4、3、に…」



PON!!!


漫画のような爆発音と共に、オーブンの戸は吹っ飛び、プリンカップがオーブンから飛び出した。
幸い に怪我はなかったものの、あまりに予想外の出来事に腰の力が抜け、その場に座り込んだ。






「え…っと…プリンって…爆発するもの…だっけ?…」


そんなバカな〜。
がポツリと呟くと、吹っ飛んだプリンカップのひとつから、少年の声が聞こえた。


「あ〜…出るトコしっぱいしちまった…あぁぁぁっ!!!!!プリンがっ!!!もったいねぇっ!!!!」

「…誰?」

は恐る恐るプリンカップに近づくと声をかけた。
すると、プリンカップの脇から、手乗りヒヨコくらいのサイズの少年が風船ガムを噛みながらひょっこりと現れた。

「オレか?オレはブン太だぜ。シクヨロ☆」

「…夢??」

「んなわけねーだろっ!!おまえがオレを呼んだんだぜぃ。セキニンもってはやくねがいごといえよな。パッパとかたづけ
て帰りてーし。」



呼んだ?
誰が?何を?
それよりなにより…これなにっ!!??


「…なにコイツはっ!!つーか台所がっ!!!プリンがぁっ!!!!」

「なに?それねがい?」

「あんたがやらかしたんでしょうがっ!!!…オヤツのプリン頑張ったのに…。」


もうわけわかんないよっ!!
半パニックになった の目からは、気が付けばポロポロと涙が零れていた。


「ぁあぁ!!なくなよ、おい。わるかったって。こんかいはサービスでなんとかしてやるから。」

ブン太はそう言うとヒョイヒョイっとオーブンの上に飛び乗り、ウインクした。

「せっかくだから、オレのてんさいてきみょーぎたっぷりみてけよ☆」

ブン太がそう言って、ぷぅっと膨らませた風船ガムパチンっと割ると
ブン太サイズの小さなテニスラケットのようなモノが現れた。

「みょーぎ・てっちゅーあて☆」

ブン太が呪文のような言葉を言いながら、ラケットを振ると、
PON!PON!POPOPONN!!とまるで魔法のように部屋中が元通りに直ったのである。
おまけにキレイに元通りになったプリンの横には、焼きたてホカホカのアップルパイがちょこんと並んでいた。


「……すごい。何!!今のっ!!」

「これがオレの力。どう?信じた?つーわけで、ねがいごといってみろぃ。」

「え…、んと…。」

ブン太の力はわかった。
これがどうやら現実らしいことも。
わかったけど…。
そう簡単に願い事なんて浮かびやしない。
だからかな?


「プロの声優になりたい…とかダメかな?」

「セイ ってなに?」

「声優は…わたしの夢≠セよ。」

安直にこんな事言ってしまったのは。
がそう答えると、ブン太はむっとした表情で の顔をみた。

「かなえられねーな。」

「なんで?何でも叶えるって言ったじゃんっ!!」

「そーゆーのはじぶんでかなえなきゃ意味ねーだろぃ。」

「!」

「ユメつーのは、じぶんのガンバりでなんとかするものなんだからオレがかなえたってぜってー無意味。」

そっか。
そうだよね。
ブン太がそう言ってくれたコトで、なんだかこの子を信じていい気がした。

「…願い事って今すぐじゃなきゃダメかな?」

「ん?」

「ブン太のいう通りだと思う。夢≠ヘ自分で叶えるよ。だから、願い事″lえるまでちょびっと待ってもらえな
い?」


がそう言うと、ブン太はふっと表情を緩ませて、頭の後ろで手を組んだ。


「しっかたねーな。お前のなまえは?」

だよ、ブン太ヨロシクね。」

、あらためてシクヨロな☆」

「うん。」


こうして、一人暮らしのわたしの部屋に小さな居候が出来たのであった。


願い事・残り3つ。