真田弦一郎17歳、気になる女性(ひと)が出来ました。














  ―Heartの秘密―















「弦一郎が初恋をした。」


部活の休憩中、柳がぽつりとつぶやいたのをレギュラー部員達は聞き逃さなかった。


「えぇっ!!マジっ
?!!つーか今ごろ?!遅っ!!!」

「なかなか真田くんらしいですね。」

柳生の言葉に赤也は呆れたような顔をした。

「えぇぇ〜!俺初恋なんて幼稚園のときに終わりましたよ。」

「赤也、終わったってことは失恋したんだろ。」

「初恋は実らないもんなんっスよ!!」

そう赤也が叫ぶとタイミング良く、ブン太の背中に女の子が飛びついた。


「ブン太、おっつ〜。コレ差し入れのアップルパイ。」

、サンキュー。赤也〜、俺はバッチリ実ったぜぃ☆」

「え?なんのこと?」

が不思議そうにブン太をみる。
その様子をみて赤也がブン太を睨むと、ブン太は嬉しそうに笑った。


「そういやジャッカルの初恋はいつなんだ?」

「んな恥ずかしい事言えるかっ!!!」

「あぁ〜、ジャッカル初恋まだかよ。だせぇ〜。」

「真田副部長以下っスね。」

「お前ら、うっせぇっ!!!」

「まぁまぁ、ジャッカルくんもまだ若いんですから。」

「んなフォーロいらねぇっ!!俺の事より真田の事だろーが。」

「あ、それ俺も気になる!誰なんスか?」



赤也が挙手して質問すると、柳は小さくうなずき話を続けた。


「彼女の確率100%だ。」


柳の視線の先には、仁王と楽しそうに話しているロングヘアーの女の子の姿があった。
まっすぐで艶やかな黒髪が、風になびいている。


「写真部の 先輩じゃん。あの人可愛いっスよね。」

「へ? がなになに???」

「そういや、 達だっけ。あぁ〜、真田にはもったいねー。」

「ん、んな事言ったら真田に悪りーだろ。つーかアイツ、仁王と仲良さそうじゃねーか。」

「あぁ、そのとおりだ。」


ジャッカルの一言に柳は返答した。


「実は弦一郎は彼女が仁王の事が好きなのではないかと心配でたまらないのだ。」

「…仁王君と仲がいいという事は、真田くんに分が悪そうですね。」

「確率は極めて低いだろうな。」

「仁王と真田じゃ正反対すぎるもんなー。」

「なんか…真田副部長可愛そうっすね。」


静まり返る一同。
最初に沈黙を破ったのは意外にも柳だった。


「よし。ここは不利な真田のために、レギュラー全員で協力するか。」

「…そうっスね、真田副部長のために(面白そうだから)協力します!」

「まかせろぃ。俺達も(面白そうだし)協力するぜ。な、ジャッカル。」

「な、ちょ、ちょっと待てよ。そっとしといてやろーぜ。」

「ジャッカルってば冷てーな、そんなんだから女にモテねーんだよ。」

「そうっすよ!ジャッカル先輩。こーゆー時に協力しないでいつするんっすか!」

「って、お前ら絶対楽しんでるだけだろ!!!」









その頃…
仁王と はベンチで話をしていた。



「…あ、そろそろ部活再開だよね。仁王くん戻らなくて大丈夫?」

「あ、ホントやの…じゃあまた後でな。」

「うん…ごめんね。」

「気にすんな、 のためだ。まかせんしゃい。」

「ありがとう。」








その様子を柱の影からみていた真田はかなり動揺していた。

(や、やっぱり彼女は…仁王の事が…好き…なのか?)


目をそらしたい状況なのに
綺麗に微笑む彼女の顔を見つめていたい葛藤。
真田の視線は自動的に を追っかけてしまう。


(いかん。これじゃまるで…)

「…真田副部長、なにやってるんスかねぇ。」

「真田、それじゃまるでストーカーじゃん。」


背後から声がした。
振り返ると
まるで自分の気持ちを代弁するように
赤也と丸井が言葉を発した。


「あ…赤也…丸井…。何故…此処にいるのだ。」

「真田くん、そこまで気になるのでしたら直接彼女と話すべきだと思いますが。」

「真田、自分の気持ちを素直に伝えないと、一生彼女とうまくいかない確率100%だぞ。」

「真田副部長、ここで負けたら漢がすたるッスよ。」

「そーだぜ。とっとと告ってこーいっ!!」

「こ、コクル??」

「真田…告るとは『告白する』の略語だ。それぐらいわかるだろーが。」

「ジャッカル…お前に日本語を教わるとはな。」

「おいおい、俺は日本人だ。」

「そうか………な、何っ??!こ、告白だとっ??!!!」


とたんに真田は熟れたトマトよりも赤く染まってしまった。
とことんこういう事にウトイらしい。


「そ、それは…つまり…。」

「真田、ちょっといいかの?」

「な!な、ななななななにににに、仁王なにか用かだ!!」

「弦一郎、言葉が変だぞ。」

「そ、そそそうか?す、すまん。」

「部活終わった後、部室で待ってんしゃい。」

「…わかった。」




再び静まり返るコート内。
なかなか重苦しい空気が流れている気がした。


「仁王くん、宣戦布告ですか。なかなかやりますね。」

「い、今のうちに、真田副部長を潰すって事ッスか!!」

「弦一郎が生き残る確率0.25パーセントだな…。」

「低っ!真田ほぼ死ぬの確定じゃん!真田がフラれるのにガム一個!」

「じゃあ俺はアイス賭けます!」

「では、私はところてん1パック分を。」

「そうか。俺は…貞治からもらった『粉末乾汁』とやらを。」

「え、んじゃ俺は…」

「あ、賭けになんなくなるから、ジャッカルは真田に賭けろよ〜。」

「はっ?」

「では、ジャッカル君以外は仁王君に賭けるという事で。」

「ま、待て!勝手に決めんな!!」

ジャッカルの叫びも空しく、あっという間に部活の時間は終了したのであった。













そして運命の時がやってきた。


静まり返った部室は、夕陽でオレンジ色に染まっていた。
窓から吹き込む柔らかい風が心地良く
真田の体温や血圧をなだめているようだった。
状況を良く知っているためか
他の部員は全員部室から早々に帰ったため
部室内は真田一人であった。


「…仁王のやつ…どういうつもりだ…。」

真田がぽつりとつぶやく。
すると、ぎぃっと部室の扉が開く音が小さく聞こえた。
真田は無意識に顔をあげた。


「…真田くん…。」

「な!ぁ…あ…… ……っ…な、なな、何故此処にっっ!!」

「ア、アレ?仁王くんから…なにも聞いてない?」

そういいながら はそっと真田に近づいてきた。


「あ、、…あぁ。仁王に部室に呼び出されたんだが…。」


困った。
がこんなに近くにいると
冷静になりたくても動揺していまう。
し、静まれ俺の心臓っ!!




「ご、ゴメンなさい!!私が仁王くんに頼んで、真田くんの事呼んでもらったの。」

「…!」

「実は、真田くんに話したい事があって…。」

「…わかっている。 は…仁王の事が好きなのだろ…。」

「へ?」

「確かにアイツは根はいい奴かもしれない。日本語がおかしい上に詐欺師だが、愛想もいいし、飲み込みも早い。」

「え?えっと?」

が好きになるのも仕方がないのかもしれない…。」

「さ、真田くん?」

「だが…それでも俺は……。」



真田は、 を引き寄せると強く抱きしめた。



「それでも俺は……… の事が好きだ。」

「…!!!」

「迷惑だとは…わかっているが……。」














「ちがうよ。」














思わず耳を疑いそうになった。
予想外の言葉が の口から発せられたから。
俺の腕の中で が恥ずかしそうに顔をあげた。
は両腕で俺の首に手を回すと
そっと俺の唇に接吻してきた。




…接吻?










「だって…私が好きなのは……真田くんだから。」








「………。」

「…真田…くん?」

「… ……悪いがビンタしてくれないか?」

「え?えぇ!!なんで?」

「…頼む。」



ペチンっ。



流石に抵抗があったためか
は思いっきり手加減して真田の左頬を打った。



「…痛くない…やはりこれは…夢か?」


真田は からそっと身体を離すと、大急ぎで部室のドアを開け
外に向かって叫んだ。


「おいっ!!誰か居ないか?!!誰か俺を今すぐ思いっきり殴れっ!!」

「おっ!まかせろぃ☆殴ってやるぜぃ〜♪」

「えっ。いいんッスか?真田副部長。」

「無論だ。かまわない。やってくれ。」

「よっしゃ!じゃ、遠慮なく。」


ボコッ!!!バキッ!!!んぎゅ〜っ!!ガッコ〜ンッ!!!!


「痛っ!!痛い!!わかった!!おい!!いい加減にしろ!!!赤也っっ!!!!!」












こうして

見事に真田弦一郎17歳に春が来たのであった。

































―おまけ―



「ちぇ。賭けはジャッカルの一人勝ちかよ。しゃーねーな。へぃ、ガム。」

「ジャッカル先輩、約束のアイス。ちょっと、かなり溶けてるッスけど。」

「ジャッカル、これが噂の乾汁だ。飲むと走ったり、生死を彷徨ったり、ゾンビになるらしいが気にするな。」

「ジャッカル君、約束のところてんです。きちんと冷やしておきましたので心おぎなく堪能してください。」

(ところてん以外いらねぇ…。)


こうして賭けには勝ったらしいが、ガラクタばかり渡されたジャッカルなのであった。




END








慎々さんキリリクで書かせていただいた真田夢。
真田と言われたのに、何故か立海夢チックに。
そして仁王君の言葉は不明。

2004年7月11日      克己