「はぁ…。」

窓際で悩ましげに溜息をつく姿。
思わず「どうしたの?」と聞きたくなってしまう。
ましてや、それが紳士と名高い柳生比呂士とあれば。

「…ハァ…。」

もっとも彼の悩みを聞ける程、自分の頭脳は上等には出来ていない。
大半の連中はそう諭し、遠目から心配げに見ているだけであった。
だから…

「柳生くん。どうしたの?」

こう聞けた はかなりの勇者と言える。


「……あ、 さん…。実は…悩みがありまして……。」

「悩み?」

「…はい。」


溜息混じりに弱弱しく返ってきた返事に、
はますます心配そうに柳生をみつめた。


「や、柳生くん……平気?」

「…えぇ。…ご心配おかけして申し訳ありません…。」

「同級生だもん!柳生くんがなにか悩んでいるんなら心配して当然だよ!」


が必死で叫ぶと、柳生はやっと小さく微笑んでくれた。


「実は…私、五月病にかかってしまったようなのです。」

「五月病?」


柳生のこの言葉に、クラスの誰もが「今七月なのに五月病にかかるのかよ?!」
と疑問を持ったのだが、如何せん医者の息子がこう言っているのだ。
たとえ七月だろうと、師走であろうと、『五月病』というのかもしれない。
そう思って誰一人突っ込まずに受け流していた。

もっともその中でも
少し天然であるため、柳生の言葉をそのまま素直に鵜呑みにしたのだが。


「五月病?!だ、大丈夫なの?!!」

「えぇ…原因はわかっているので…。」

「…私に出来ることあったら…何でも言ってね。力になるから。」


のその言葉に柳生はバッと顔を上げた。


「本当ですか?!」

「うん。女に二言はないよ。」

「では…私と付き合ってくれませんか?」

「…え?」

が俺と付き合ってくれたら、五月病も治るんはずなんだがの。」

「…へ?…の?……俺?……もしかしてアンタっ!!」

「お?…しまった…バレてしまったようですね。」


眼鏡を外したその瞳はまぎれもなく
詐欺師と名高い彼であった。


「仁王?!!や、柳生くんはどうしたの??!」

「あいつは風邪で休みとね。」

「…よ、よくも騙したなっ!!!」

「何言っとる。騙されたのは俺のほうじゃけん。」

「え?」

「お前、なんで柳生の前ではそんなにブリッコしとるんじゃいっ!!」

「せめて女らしいと言ってよ!!そんなの柳生くんが良い人だからに決まってるでしょ!」

「なら俺は、悪い人っつーんかっ!!」

「悪い人代表に決まってるでしょうがっ!!嘘つきっ!」

「それは違うの。騙したが嘘はついとらん。」

「同じじゃん。」

「違う。」

「どう違うのよ!」


仁王はガシッと の肩を両手掴むとマジマジと をみた。




「な、なに??え?に、仁お…」







一瞬、何が起こったのか にはよくわからなかった。






周囲のざわめく声と、唇に残った感触から
だんだんと何が起こったのか嫌でも推測出来た。
だが、現状を考えるのがあまりに怖かったため
は目をパチクリさせながら固まってしまったようだった。







「俺と付き合ってくれんかの?」





珍しく真剣な目。
一刻も早くこの場から立ち去りたいのに仁王の両腕がそれを許してはくれない。





?」

「わ…わかんない…。」


そう答えると今度は自分でも明確に理解出来るくらい、しっかりと唇を重ねられた。



「…に、仁王っ!!」

「…こういう事するの嫌か?」

「そ、そういう問題じゃないでしょっ!!こ、ここ教室で、みんなが…。」

「関係ないじゃろ。誰がみてよーと。」

「関係あるっ!は、恥ずかしいもん。」

「俺が嫌いか?」

「好きだけど好きだからこんなとこでキスとかされたら困るのっ!!!」




勢いあまって
思わず本音を言ってしまったが、もう遅い。
みると仁王はにやりと不敵に笑っている。



「なら俺ら両想いじゃけん、付き合っても問題ないじゃろ?」

「…こ、ここで答えろと…?」

「公に宣言しとけば皆が証人になるから、少しはお前が俺の発言を信用するじゃろ。」



周囲を見渡すとクラス全員が納得したようにうなずいていた。


「ほれみんしゃい。」



このとき私はクラス全員が敵に思えた。
人事だと思って楽しそうである。
そのうえなぜか仁王ファンの女の子達までもが

「カッコいい…。流石仁王くん!告白でここまでやるなんて…。」

「うん、なんか納得。 さんとなら許せるかも…。」

とつぶやいている…。


そういうわけでクラス中が一丸となって仁王の味方状態になっていた。


…早く答えんしゃい。」


万事休す…。


「…に、仁王が…もう私に…嘘つかないって…約束してくれるなら…いいよ。」

「俺はいつでも自分に正直だがの。」

「に〜お〜うっ!!」


ムッとした私をみて、仁王は楽しそうにケラケラ笑った。

「冗談じゃ。…約束する。お前に嘘は二度とつかない。これでいいか?」

「…う、うん//」


仁王にらしからぬ笑顔。
いつもの嘘くさい笑いではなくて
少年みたいな(少年なんだけど)笑顔。
仁王のこんな笑顔初めてみた。
ヤバイ…。
心臓に悪いよぉ…。


そんな私の気持ちを完全に見抜いているペテン師君は
スッと私の右頬に手を当てて
いつもの不敵な笑みをフッっともらした。


、今俺に惚れ直したじゃろ。」

「だ、誰がっ!!!!!」

はもっと素直になりんしゃい。」

「…ど、努力…するよっ!」

「まぁ、 の場合は言葉よりも身体が素直なんじゃがの。」

どよめくクラス。
そしてまっかっかに頬を染めた私。

「に、におう…?///」

「ほら。すぐに顔に出るからの。」

「…///」



仁王雅治め。

まったく
私が五月病になりそうです。











5000HIT御礼企画フリー夢『五月病(立海編)』。
初の仁王夢。

2004年8月5日     克己