「いいなぁー。お兄ちゃんは自転車乗れて。」 私はお兄ちゃんの自転車を羨ましそうに眺めた。 「いいだろ。お年玉全部使って買ったんだぜ。」 「私も乗りたい!いいなぁ〜。乗りたい!乗りたい!!」 自慢気に兄が笑うから余計に私はこの自転車に乗りたくなってしまった。 「乗りたいって言ってもなぁ。 は自転車乗れねぇだろ。 第一この自転車じゃ足がペダルに届かねぇよ。」 「でも乗りたいんだもん!!お兄ちゃんのバカ!!!」 涙目になりながら私は兄を睨んだ。 すると兄はいつもやるように大きな手で私の頭をポンポンと撫でておかしそうに笑った。 「はいはい。そんなにムキにならなくてもいいだろ。 が自転車乗りたいときはいつでも俺が乗せてやるからさ。」 「それ本当?」 兄を上目使いで見上げると兄は私の両目に溜まった涙の雫を右手の親指でふきとった。 「あぁ。俺の自転車の後ろはおまえの特等席にしてやるから泣くなって。」 こうしてお兄ちゃんの自転車の後ろは私の特等席になった はずだったのに… 数年後その場所は越前リョーマという男にちゃっかりと盗られてしまったのであった。 「よっ、 。帰り道かぁ?」 学校の帰り道、お兄ちゃんに後ろから声をかけられた。 「桃先輩、誰ッスか?」 振り返ると私の特等席には見知らぬ男の子が乗っていた。 ココロのどこかがチクリと痛んだ。 そこは私の場所なのにと。 「俺の妹。」 「へぇ〜桃先輩って妹がいたんッスね。」 男の子は自転車から飛び降りると私の顔をマジマジとみた。 「あんた、名前は?」 「 ...だけど。」 男の子は小柄で私と大差ない身長だった。 「あんた、桃センパイに似なくて良かったね。」 …はぃ? 「おい、越前。お前それどーゆー意味だ!」 「言葉のまんまッスけど。桃センパイと違って可愛い顔してるなぁと思っただけッスよ。」 しらっとした調子で男の子が答えるとお兄ちゃんは 少し怒ったような調子で男の子の頭をどついた。 「コラ。ひとの妹をナンパしちゃいけねぇな。」 「痛っ。別にナンパなんかしてないッスよ。」 「ほぉ、越前ホントだろうなぁ。」 私はなぜか兄が男の子を少し睨んだ気がしたのだった。 「あの子だれ?」 男の子を送ったあと、兄の自転車の後ろに乗りながら私は聞いた。 「ん?越前か?ありゃテニス部の後輩だ。生意気だが結構すげぇヤツだぜ!」 「…後輩。」 「なんだぁ?もしかして ってば越前に惚れたのかぁ?」 「誰がっ!」 兄はおかしそうにケラケラと笑った。 「…お兄ちゃんの嘘つき。」 私はなにか無性に悔しくなってそう口走っていた。 「はぁ?俺、 に嘘なんかついてないだろうが。」 「ついたもん。」 「へぇ〜。で、どんな嘘なんだ?」 「自転車の…うしろ。」 「じてんしゃのうしろぉ?」 「ここは私の特等席って言ったのに。」 私はぷぅっとむくれると兄の背中にしがみついた。 「あ…悪ぃ…。 、もしかして気にしてたのか?」 「べっつにぃ。」 私はわざとぷぃっと後ろを向いた。 「おぃおぃ。確かに越前乗せたのは悪かったけどよぉ…女で乗せたのはお前だけだぜ。」 (え?) 一瞬心臓が高鳴った。 私は冷静を装って言葉を続けた。 「ふぅ〜ん、それって今後も続くの?」 「そうだなぁ。お前に彼氏が出来るまでは女はお前しか乗せねぇってことで♪」 「案外その日早く来たりしてねー。」 私がクスクスと笑うとお兄ちゃんはちょっと真面目な調子で言った。 「そう簡単には降ろせねぇな。」 「え?」 「多分一生降ろさせねぇぜ。」 あまりに恥ずかしくて私はバレないように、兄の背に紅潮した顔を押し付けた。 「じゃあお兄ちゃんのためにあと2、3年は乗っててあげるよ。ついでに越前も許してやるか。」 動揺がばれないかドキドキしながら、心と裏腹な発言をした。 そして内心では… 一生乗っててやるぅぅ!!!! と心に誓ったのであった。 刹刃アキラさんに1600番のキリリクで書かせていただいた桃城夢で兄妹設定でした。 桃城夢また書きたいかも。 2004年4月16日 克己 |