あいつと私が出会ったのは そう 忘れもしない 11月24日。 「ない!」 帰路に着きかけていた私はJR改札口の前で思わず叫んでしまった。 「うぅ〜。どうしよう…あれがないと帰れないや。」 そう。 学生にとっては命の次の次くらいに大切(?)な定期券を落としまったのです。 「私のばかぁ…。」 泣きたいのをこらえてつい下に俯くと 〜♪ いきなり携帯の着信音が聞こえた。 ディスプレイをみると『公衆』と表示されている。 少しだけとまどったが私は電話に出ることにした。 「…もしもし?」 「ねぇ。あんた サン?」 聞き慣れない男の子の声。 少し生意気そうな感じだが、変声期前の少年特有のちょっと可愛い声が聞こえた。 (しょ、小学生??) 「は、はい」 「もしかして定期落とした?」 唐突な言葉に私は戸惑いを隠せなかった。 「え?うん。もしもし?アナタドナタ?」 少年は私の言葉を無視して話を進める。 「あんたの定期、校門の近くで拾ったんだけど。」 「!ホント?」 「うん。」 「ありがとうvvよかったぁ!!」 私は思わず歓喜の声をあげた。 このとき心なしか電話の向こうで少年が笑ったように聞こえたんだ。 「ファンタ。」 「へ?」 「俺、部活帰りで喉かわいてんの。」 「…わかったわよ」 「じゃ、早く来て。寒いから。」 「ちょ、ちょっと待って。どこにいるの?」 「青学中等部の校門前の電話ボックス。」 「え?あ、あの…。」 ツーツー。 その言葉を残して電話が切れた。 (マジかよ!!) これでもかってくらい全力疾走した。 少年が帰っちゃったら手も足もでない。 電話BOXの前には一人の少年が学ラン姿で座っていた。 (中学生だったのか。) 想像よりも小柄で 想像通り小生意気そうな感じがした。 「キミ?」 私は少年に声をかけた。 「 サン?」 「うん。君、名前は?」 「遅い(ぼそ)」 「ご、ごめんなさい。」 その言葉には威圧感があってつい謝ってしまったのだけど 少年はふと思い出したようにつぶやいた。 「ファンタは?」 「え?」 「ファンタ。」 「あ!ちょ、ちょっと待ってて。」 私は自販機のところまで走って行きすぐにもどってきた。 が、 「きゃぁぁぁぁ!!!!!」 頭の中でこの年下の少年に対し確実に緊張していたためか 道路のガードレールにコートの端をひっかけてコケかけてしまった。 幸い目の前の少年がコケかけた私を支えてくれたんだけど。 「あ、ありがとう///」 「…あんた高等部の人だよね?」 「う、うん。」 「もう少し落ち着いたほうがいいんじゃない?」 「な!」 「定期なんて大事なモノまで落としてさー。」 と、少年はこれ見よがしに、私の目の前で定期入れをヒラヒラさせた。 「あぁ!!!!」 「なに?」 「あのありがとうございました。返していただけますでしょうか?(にっこり)」 思いっきり愛想良くしたのに 少年は「フッ」って感じにふてきな笑みをもらすと 「な、なにを…。」 「ファンタ一ヶ月分でどう?」 (…このクソガキがぁ!!!) と殴りたい拳を私は必死で抑えた。 ここで殴っては元も子もない。 「あはははは…(苦笑)」 私の苦笑いを承諾とみなしたらしく 少年は満足気な笑みを浮かべて私の定期入れを 私のコートのポッケに入れた。 「交渉成立だね。ちなみに、名前は越前リョーマだから。」 それから、私たちは毎日同じ場所で会った。 始めは不本意だったけれど、リョーマと私はすぐ意気投合した。 家族のこと。 ペットのこと。 好きな食べ物の話。 朝食は和食派だとか。 学校のこと。 部活のこと。 リョーマはテニスをやっていること。 部活の先輩のこと。 大会の話。 たいしてとりとめないような話を毎日のように沢山話した。 いつの間にか 『放課後に自販機の前』は二人の日課になっていた。 12月23日 「遅いなぁ。」 いつもの時間、いつもの場所で私はリョーマを待っていた。 「寒い。」 昨日が終業式で、今日はもう冬休みだったけど、 日曜日もかかさず毎日ここで会っていたから私はなんの迷いもなく待っていた。 「今日、23日だから『約束の日』まであと一日か。」 『ファンタ一ヶ月分』 あの約束から明日でちょうど一ヶ月。 もう明後日からは会えなくなるかもしれない。 そう思うと心が痛んだ。 「それにしても遅いなぁ…。」 1時間待っても彼は現れなかった。 夕方の師走は長時間外にいるにはかなり堪えた。 ぱら。 夕刻の空をふと見上げると雪が降ってきた。 街が街灯のネオンと雪で美しく彩られ 楽しそうに歩いて行く人達をみつめると の頬に涙が流れた。 「…なんだよ。リョーマの嘘つき。」 なにか無性に腹立たしくて ポロポロと落ちる涙が 雪と混ざって 消えた。 12月24日 今日は約束最後の日。 きっとあいつは来てないけど 約束を果たすためにも 私はあの場所に向かった。 「リョーマ、来たんだ。」 私がいつもの自販機近くの段差に腰掛けていると目の前には 今一番逢いたくて、一番逢いたくないヤツが立っていた。 「なんで?」 「終業式が22日だったから来ないかと思ってたよ。」 「昨日も来てたケド。」 「え?」 「部活長引いたから。」 「…。」 そっか。 きっと入れ違いになったんだね。 それを聞いて少しだけホッとした。 「…ごめん。」 ふわ。 気が付くと私はリョーマに優しく抱きしめられていた。 意外な言葉と行動をリョーマからもらってとまどってしまう。 「雪降ってたし。 サン大丈夫だった?」 「あ、うん。」 「寒かったでしょ。」 「だ、大丈夫だったよ。」 リョーマが私を抱きしめる腕が気持ち強まった気がした。 「…ごめんね。」 ここまでリョーマがいうのだからおそらくかなり心配してくれたのだろう。 そのコトを思うと胸が熱くなった。なんでかわからないけれど。 しばし沈黙の間。 「今日誕生日なんだよね。」 またなんの前置きもなくリョーマがいきなり突拍子もないことを言い出した。 「…えぇ??!!ど、どうしよう。なにも用意していないよ。」 知らなかった。 そういえば一ヶ月間、誕生日の話は一言もでなかった。 「まだまだだね。」 「ご、ごめん。」 「…喉乾いた。」 「へ?」 「ファンタは?」 「あ、はいはい。」 そう言われて、私は立ち上がり彼にファンタを買って渡した。 これがラストのファンタ。 そう思うと少し淋しいけど 何事にも終わりはある。 そう考えながら私は最初に座っていた場所に再び座った。 プシュッ プルタブを開ける軽快な音と共に、彼は私のすぐ横に座る。 「ねぇ。」 リョーマのほうを向くと、彼は私の手に、今開けたファンタを渡してきた。 「誕生日プレゼントそれでいいよ。」 「え?だってコレは…」 「それ飲ませて。口移しで。そしたら許してあげる。」 さらっと世間話でもするかのようにリョーマがいったから。 なんのことだかわからなかった。 ………………え? ………………………………くちうつし? 「な、なな、い?!(かあぁ///)」 「やなの?」 やなの?と聞いた瞳があまりに強くて 私は気が付くと彼の誘導尋問に引っかかっていた。 触れる唇。 二人の間にファンタの甘い味が広がっていった。 この甘い作業に没頭してしまい、私は何度も彼に缶の液体を運んだ。 まるで彼の魔法にかかってしまったかのように。 何度も何度も。 私はその行為を楽しんだ。 この瞬間だけは彼を独り占めできる気がした。 年も立場も関係なく。 キスをして初めて気が付いた。 私はリョーマが好きなんだってコト。 「ふーん。」 「な、なによ。」 「別に」 彼の、べつに。がいつもと違って感じたのは多分気のせいなんかじゃないと思う。 だって怒っているようなのに笑っているもの。 「 サン。」 「なあに?」 「クリスマスプレゼントは?」 「え?」 「まだ『言葉』もらっていないんだケド。」 「?リョーマお誕生日おめでとう。」 「いや、そうじゃなくて。」 「メリークリスマス☆」 「…まだまだだね(ため息)」 がっかりしたようすのリョーマをみて、私は耳元に囁いてやった。 「(こそ)だいすきだよ。」 そう囁くと、小生意気な年下のオトコノコは珍しいことに赤くなっていた。 (まだまだだねぇ(にやり)) こうして『おわり』だと思っていた日は『始まりの日』となった。 END 慎々さんにキリリク30番で書かせていただいたリョーマ夢。 リョマと私の誕生日一日違いなので誕生日ネタが書きたかったのだ。 2003年12月3日 克己 |