「ま、間に合わない!」

がダッシュで電車に飛び乗ると背後でドアの閉まる音がした。

「うぅ〜、完璧遅刻だよ..。」

時計をみるとあきらかに約束の時間に間に合わない。
はぐったりと電車のドアに寄りかかった。


休日のお昼時だけあって乗車客は少なく、
車内は比較的のんびりとした穏やかな雰囲気に包まれていた。
目的の駅までは時間がある。

は車内の広告をぼんやり眺めた。
すると真後ろから女の子のハツラツとした声が聞こえた。




「アレ?今日からクリアランスセールだ!マルイの。」

..まるい?


電車内で女子高生が言った一言に は思わず反応してしまった。


「あぁ!ホントだ行きたい!マルイのバーゲン!!」

「ね!半額セール逃したくないもん!」



..まるいのばーげん。

電車のドアが開くと はダッシュで電車から飛び降りた。
待ち合わせの改札口まで早足になってしまう。





心臓がバクバク





嬉しいやら
恥ずかしいやら
むずがゆいやら





脳裏をぐるぐるしてる原因が見えると
思わず顔が緩んでくる。







「お前また遅刻かよ。」

待ち合わせ相手の顔をみたとたん はいきなり腹を抱えて笑いだした。


「..ま、まるいのバーゲン。ブン太半額セール実施中..くくっ。」

が自分の顔を見て突然笑いだしたのでブン太は顔をしかめる。

「遅刻したうえに自分のカッコイイ彼氏の顔みてイキナリ爆笑するなんて失礼なヤツだぜ。」

「ゴメン、ゴメン。実は電車の中で聞いちゃってさ。」

「はぁ?」

「ブン太のバーゲンw」

「俺は安売りしないぜぃ。」



ブン太がパチンっと風船ガムを割る。


「あ〜違った違った。マルイのバーゲンだよ。」

「そっか。もうそういう時期か。…って、ちょっと待てぃ!それってお前、マルイ=俺って思ったっしょ!」

「うん!」

「何その馬鹿な発想…」

「ねぇねぇ。だからさ。今日からセール終了日まで、ブン太は私に3割増しで優しくするってどう?」

「却下。」

「えぇ〜!!じゃあ1割増しカッコよくなる!」

「あ、これ以上は無理。」

「う〜ん、2割身長増量とか?」

「いきなり伸びねぇよ。」

「じゃあなんならいいのさ?!出来る事を言ってみろっ!!」




がそう叫ぶと
ブン太は の寄りかかっていた駅の柱に両腕を伸ばし
両手で を囲った。




「…ブ、ブン…」



ブン太の唇が言葉を発そうとした の唇を塞いだ。



逃げれない…。


昼下がりの駅前で
こんなコトされているのが妙に恥ずかしくて
ハートが爆発しそうだった





「な…んでそれでキスするの?」


は急に耳が垂れた子犬のようにおとなしくなると
照れた顔つきで上目づかいにブン太をみた。



「へぇ。 にしては珍しく可愛い反応じゃん。」

「ちゃ、茶化さないでよ。」

の反応をみると満足気な表情でブン太は の右手を掴んで歩き出す。

「あ、ちょっとブン太どこ行くの?」

「俺ん家。」

「へ?だ、だってデートは?ブン太ん家の家族は?」

「外だと真っ昼間からイチャつけないだろ。うちは今だぁれもいないから平気。」

「ちょ、ちょっと待って!なんでさっきの話からこうなるの?!」

「だから のご希望通り丸井ブン太セールつー事で、kissがいつもの5割増。

今ならオプションで色々な付加サービスももれなくプレゼント。」

「いろいろぉ?」

「そ、色々☆」

「…い、いらない〜っ!!!」

大慌てでブン太の手を必死にひっぱろうとする
けれど腕力で敵うわけがない。
いかに非力そうでも仮にも立海大付属男子テニス部レギュラー。
平然とした顔でブン太は をみた。


「バーゲン品は返品不可だぜ。出来るもんなら返品してみろぃ。そしたら別れっからな。」

「…それはヤダ。」

「だったらつべこべ言わずについて来いよ。」


ブン太ってばずるいよ。
そんなこと言われて
さっきよりもしっかりと手を繋がれて
返品出来るわけないじゃない…。


「わかったよ。」

「へへ。お買い上げサンキュー!これからも丸井ブン太商店をシクヨロ☆」






こうしてまんまとお持ち帰りされたわけなんですが

アレ?
これってなんか立場逆じゃない?


気がつくとバーゲン品にされたのって
丸井ブン太じゃなくて のような気がします。








マルイのバーゲンの度に心臓がドキドキします。。
 2004年5月23日          克己