「なぁ、 。英語の教科書貸しちくり☆」

朝、教室に入ろうとした矢先、 は菊丸に突如こう言われた。
「大石か乾にでも借りなよ。」

はそう答えると教室に入ろうとする。


「う〜、それがさ二人とも今日英語にゃいんだって。一生のお願い〜。」

「しょうがないなぁ。私、今日は英語5限だからお昼までに返しに来てね。」

は鞄から英語の教科書を取り出すと菊丸に渡す。

「サンキュー!さっすが ちゃん!あとでにゃんかお礼するよん。」

菊丸は嬉しそうに自分の教室へと走っていった。
菊丸の後ろ姿を見送ると も自分の教室に入ろうとした。


…だが


ふとある事に気がついて は菊丸の教室をみた。


(落書き..消しておけば良かったかな..アレみられたらどうしよ。)

は冷や汗が出るのを感じたが、本当に困っていたからこそ自分のところに来たのだろうと思
うと
取り返しに行くのもなんだなと思った。

(まぁアレはミルキーペンで、あんなページに書いてあるし、あいつニブそうだから大丈夫かな。)

最悪のパターンを想像すると心苦しいので は自分にいいように自身に言い聞かせると教室
へと入っていった。






「英二、教科書は借りれた?」

菊丸が教室に入ると不二が少し心配げに尋ねてきた。

「もち☆ は昔っからイイヤツだかんな〜♪」

って3−4の さん?」

「そうだよん。」

「確か可愛くて楽しいって評判の娘だよね?ふぅ〜ん、英二とトモダチなんだ。」

不二の楽しそうな表情に菊丸は少しムッとした。

「…不二。」

「ん?」

「手だすなよ。」

それを聞いて不二はより面白そうに笑みをもらした。

「でも英二のモノでもないよね。」

「!」

「早くしないと他のヒトに獲られちゃうかもよ。」

そう言葉を残し自分の席に着く不二を菊丸は恨めしそうに睨んでいた。








授業開始から10分
さきほど不二に言われた言葉が俺の頭のなかでリピートされていた。

と俺は小学校からの付き合いだ。
は昔から男女問わず誰とでもすぐ仲良しになる娘だった。
もちろん俺もどちらかといえば『浅く広く』トモダチを作るほうだから
沢山トモダチはいるけどあんまり深く相手と付き合いは持たない。

だけど…


俺のなかで はトクベツだった。

話せば話すほど惹かれてしまう。
傍にいたいと思う。
手を繋ぎたいと思う。
触れてみたくなる。


笑顔も涙も全テを
独り占めしたくなってしまう。

俺だけのモノにしたくなってしまう。


そのうえ の事を『恋愛対象として好き』って思っているやつも少なくない。
不二の言うとおり
早くしないと他のヤツに盗られてしまうだろう。





だが俺と は距離が近くなりすぎた気がした。
にとって俺は一生イイオトモダチってやつなのかもしれない

(今更言えるワケにゃいよなぁ…。)

俺はぼんやりと窓の外を眺めた。

(ちっくしょ〜!!不二があんな事いうから!!)

俺はイライラしながら“ の英語の教科書”をパラパラとめくった。

(あ!そーだ。イライラの腹いせ(?)に落書きしてやろっと♪)


思い立ったら即行動。
俺はペンケースからシャープペンを取り出すと謎の外人の顔写真に手始めに落書きをした。

眼鏡の男のイラストには“眉間にしわ”を書いて“校庭20周”と書いてみたり
スキンヘッドの男を鉛筆で浅黒くして“俺かよ!!”と書いてみたり
帽子を被った子供の絵に→付きで“おチビ”って書いて、その脇に“まだまだだね”って書いたり

落書き出来そうなページを探してパラパラめくっていくと、とうとう最後のページまできてしまっ
た。

(あ〜、ちぇ。もう奥付じゃん。)





   【 中三  英 語  English 3    】
 @残念無念また来週〜♪A完璧パーペキパーフェクト B充電完了〜☆
 Cいつも『にゃーにゃ』言っている。※少し控えたほうがカッコいいのになぁ・・ちょっ


  平成○年×月△日 検定済

 著者:次元 高次 他7人  1998年

 発行:株式会社 新英出版社林鈴堂
                      ※I love Eiji. I need you. I want you.




























奥付を眺めているとなにか違和感を感じた。

(あれ? のヤツなにか落書きしてる?)

俺はすげー気になったのでマジマジと教科書を眺めた。












そして
ある事に気がついたのだった。












、教科書サンキュ〜☆」

お昼休み、菊丸がいつも通りの笑顔で教科書を返しに来たので は内心ほっとした。

「ところでさ、お昼これから?」

「?うん。」

「マジ?じゃあ英二くん特製プリプリ海老フライ弁当をご馳走してやろう!」

「へ?」

「よぉ〜し!天気いいし屋上行こっか。」

「き、菊丸?」

は菊丸に手を引かれながら屋上へと半ば強引に連行されたのであった。










「ん〜。サイコ−にいい天気〜♪」

英二は気持ち良さそうにノビをすると空を眺めた。
すがすがしい青空がどこまでも広がっていてキモチイイ風がそよいでいた。


「きくま…」

、俺の事好き?」

「…な、なんで?」

は頬を桃色に染めあげると俯いた。

は俺の事が必要なんだよね〜。」

「…そ、それって…」

「そして…」

英二は微笑むと両手で の顔を自分に向かせた。

「俺のこと欲しいんだよな。」

「…っ!!」

は絶句した。

目立たないようにミルキーペンで
しかも奥付というまずヒトが見なそうなページに書いたというのに。
よりによって
一番みられたくないヒトにみつかってしまうなんて。


「まぁ、あそこまで書かれちゃったら仕方ないかぁ〜。」

「うぅ…。」

が真っ赤になって悔しそうに英二をみた。

「俺のほうはいつでもテイクアウトされてやるよん。」

「え、遠慮させていただきマスっ!!」

は英二の手をふり解こうとするが
やはり相手はテニス部レギュラー。
その上男と女では力の差は歴然だった。

「ふぅ〜ん、じゃあ俺が の事持ち帰るほうがイイんだ。」

「そ、そういう問題じゃなくて…っ!!」

「もう駄目。捕まえたもんね。」

英二はちょっぴり意地悪く笑うと の唇に自分の唇を重ねた。
触れるだけの小さなキス。

「なっ!!」

「I love you.I need you.I want you.…同感。」

英二が囁くように耳元に言葉を落とした。

「えっ…英二。」






は英二の瞳を真剣に見つめる。







「…英二…英語出来たんだね。」

「… …俺の一大告白ぶっ潰さないでくれる?」

「だって〜英二に読解出来まいと思って…あんなところに英語で書いたのに。」

「いくら俺だってあのくらいの英語わかりますよーだ。」

「あーぁ、大失敗だぁ。」

はため息をついた。




「いいじゃん。どっちみちこうなる運命だったんだよ。俺たち。」

自信たっぷりに英二に笑われて
私は心臓がパンクしちゃうのではないかと思った。
気がつくと は自分の両腕を英二に回していた。






「俺も の事がスキ。」


英二が私の頬やうなじに小さなキスを落としていく。


「俺には が必要。」


まるでその言葉の証のように。


が欲しい。」

「えい…。」

英二は の耳に伝えると
今度は深い激しい口づけをされた。

「…んっ。」


心地良くて
英二を好きってキモチが溢れてきて
英二じゃないけど
どっちみちこうなる運命だったのかもしれない。
そう信じてみるのも悪くない気がした。



















「あ〜ぁ、英二のせいで5限受け損ねた。せっかく英語の宿題やってきたのにな。」

も同罪だよん。チャイム鳴ってるのに動かなかったんだから。」

「…しょうがないよ。『英語』より『英二語』のほうが好きなんだから。」

はそうつぶやくと英二の背中にもたれかかった。

「あ!そういえば、俺ってそんなに『にゃ−にゃ−』言ってる?」

「うん。『英二語』っていえば『にゃーにゃー』でしょ(笑)」

「…でもにゃ−って言わないほうがカッコいいんだよな?」

「まぁそう書いたけどさー。」

がそう言うと英二は決心したように立ち上がった。

「よし!俺今日からあんま『にゃ』っていわにゃいよーにすんぞ!」

「ほら言った!」

「あ、あれ?ほんとだ…にゃんでだろう?おっかしーな。」

英二は困ったように頭をかくと空をみた。





でも本当は『にゃー』って言おうと言うまいと
英二は英二だから大好きなのだけどと は密かに微笑んだのであった。












自分が中学生なら間違いなく英語の教科書は大変な事になってるにちがいない。

 2004年4月27日     克己