青春学園の文化祭はダンス部、吹奏楽部、
そして演劇部などのオープニングセレモニーで始まる。

芸能人が来るならいざしれず
文化祭のオープニングセレモニーを真面目にみているヤツはほとんどいなかった。

とくに演劇部。
大半の人は、周りの友達としゃべってるか、さもなければ寝ている。




だが



この中に唯一真剣に腕組みして体育館の壇上をみつめるやつがいた。











乾貞治。










彼は演劇部の出し物をみるのに、ひそかに燃えていた。
(といっても彼が燃えている事に周囲の人間は気付いているわけがないのだが)
なぜかというと…





…今日こそおまえのデータを取ってやる。)





話は半月前に遡る。




















「もうすぐ文化祭だな。」

3−11の日直当番で放課後残っていた乾と はテキパキと仕事をこなしていた。
乾はテニス部。 は演劇部と、二人ともこの後すぐに部活がせまっていたからだ。



「楽しみだねぇ。わたし初めて台詞が長い役もらったの。」

「よかったな」

「うん。まぁね♪」

そう がにっこりと笑う。

(不二と似ている…気もするが、やっぱりちがうしな。う〜む…。)

いつも通り、何を話すにも常にニコニコしている を乾は観察していたが
いい加減疲れたようで、ひとつため息をもらした。


は強者だな」

「はいぃ?」

黒板消しを叩いてた は乾の唐突な言葉にすっとんきょな声で返事をした。


「乾くん、何が?」


「謎なヤツだと思って。」


少し間をおいて思わず は笑いだした。


「乾くんに言われたくないよぉ(爆笑)」

「曖昧模糊というか、お前の本質だけはいくら調べてもわからない。」

「あいまいもこねぇ〜。」

「あぁ、掴めない。まさにミステリアス95%といったところだな。」

はその言葉を聞いてしてやったりっ!といった表情になった。


「えへへ。『役者はプライベートに関してミステリアスでなくてはいけない』って言葉があるの。

だから極力人に余計な散策されないように努力しているのです!」

「ほぉ。なるほど。」

ただ純粋に子供っぽくて、単純で元気なだけな気もするが、
乾には、それだけじゃないような、もっと奥に秘めた何かがあるような気がしてならなかった。


(完全にデーター外の人物だな。)


どうしてかはわからないが、初めて話したあの日。
初めて一緒に日直をしたあの日から、 の事だけはどうしてもわからなかった。

そして、乾自身にもなぜだかわからないが、
をちゃんと知りたいという気持ちがいつのまにか大きくなっていた。







そして一方 はというと、
さっきからのやりとりに頭の中と頭の中の心臓だけはグルグルのバクバクになっていた。


(うぅ〜、『役者はプライベートに関してミステリアスでなくてはいけない』なんて言って、
ホントは、乾くんにわたしのこと知られるなんて恥ずかしくて絶対無理!!
だからなんだケド、言えない(苦笑))







そう。
今、 が気になっているひと。
乾 貞治。






実は が余計な事を人に話さないのも
ミステリアスといわれてしまうくらい自分の本音を出さないのも
全ては乾貞治のせいだった。



彼の特技は『データー集め』。
いつなんどき情報を取られるかわからないから
乾を意識し始めたあたりから、 はポーカーフェイスを徹底してる。



といっても無表情ではなく、
それは『いつも笑顔』なのであった。


役者にとって『無表情とは素』なのだ。
すなわち無表情のほうがちょっとした反応で相手に本来の自分がバレてしまう。
だからこそ彼女は『笑顔』を徹底してた。
そういう意味では本当に『不二』と似たもの同士なのかもしれない(笑)





「興味深いな。」

「なにが?」

「本当のおまえ。実に気になる。」



乾にデータを取らせない人間。
学年、いや学園内なら、おそらくそれは恐怖の暗黒魔王、不二周助か、
の二人だけだろう。




ドキッとした。



(『本当のわたしが気になる』なんて、そんなことを好意のある相手に言われて
平常を保てる人がいるのかしら?こういうとき『本音』を隠すのが上手くてよかったなぁ///)







乾 貞治。


正直、 は彼のことを尊敬している。


データーテニス。


乾は何でも計算して動くのが上手い。
逆に は苦手なことは『計算の上の行動』だった。



演技でいうなら、この台詞を言ったら上手(かみて)、とか。
この人の台詞のときに下手(しもて)に言って言い終わると同時にこの動作とか。
計算の動きといえば「ダンス」「リズム」「タイミング」


きっと乾ならこうするだろうな、こういうの得意なんだろうなと思いながら
密かにテニスコートを見つめていることもあった。


が得意な事は「演技する事」だけだから。
しかも乾に対してだけ。


一生懸命なのはわかるが、お世辞にも「演技上手い!」というほど演劇が上手ではなかった。
だから、乾にだけバレないように演技できることが自分でも正直信じられなかった。







「実に気になる!なぁ〜んていわれても、ハムスターや朝顔じゃないよ、わたしは。」

「そうだな」

そういうと乾はふっと優しく笑った。



どきん。






( まただ。いい加減、いつか誤魔化せなくなっちゃう。でも…。)

「じゃあ興味深いとか言わないの。」

「でも気になるから。」

「ふぅ〜ん。」


はわざとこういう風に答える。

(まぁ、乾くんはこういうことに疎いけどいつバレちゃうかが恐いなぁ。)



の心臓は正常なのに
頭の中の心臓はバクバクいってる。

(…今しかない気がする。)

「そこまでいうなら…そうだ!演劇部の芝居。」

「え?」

「演劇部は今度の文化祭で出し物するの。それを寝ずにみれたら教えてあげるよ。
わたしの本音。」

「?あぁ、わかったけど、なんで寝ずにみれたらなんだ?」

「みてればわかるよ(苦笑)」







そして当日すべては明るみになった。












「…なるほど。そういう事か。」

芝居が始まって30分。
すでに8割の人がオチていた。
その理由は…











  『Why, Mary Ann, what are you doing out here? Run home this moment,

                 and fetch me a pair of gloves and a fan! Quick, now!』
  
  『He took me for his housemaid』 

  『How surprised he'll be when he finds out who I am!
  
        But I'd better take him his fan and gloves--that is, if I can find them.』




           題目:不思議の国のアリス 


    













 …の英語版。





















 「しかも、…時計ウサギ………くっくく。」

はいつものニコニコ顔じゃない。



はっきり言って
英語の発音はボロボロだし
たいして演技が上手いわけでもなく



でも
瞳がキラキラしてて
すごく生き生きしてて楽しそうで


なんか妙に…






「…可愛い///」

初めて の本当の表情をみた気がした。





だから俺は『ホントの彼女を知りたかったホントの理由』にいま気づいたんだ。










「いっぬいくん♪どうだった?」

文化祭だというのに日直当番の二人は今日も放課後の仕事をしていた。

「おかしかった。」

「(むぅ。)おかしかった?おもしろかったじゃなくて?」

「うん。おかしかった。おまえが。」

「わ、わたしぃ?!!」(あせあせ)

「うん。可愛かった。」

「…。………。……………。……………ぇええええええええっ????!!////」





「本当の が少しみえたし。だから、もっと知りたいんだけど。」

一瞬沈黙の間が空いた。

「それは…乾君がデータ取りたいから?」

「…まぁ、データも取りたかったけど、『恋愛マル秘データ』として。」

「そ、そ、それって、そうゆうコト?乾くんが私のこと…///」

「あぁ。 のことスキ。」

「そ、そっかぁ////」

は顔を真っ赤にしてうつむいた。

でもその後ふと思いついたように顔をあげた。

「乾くん!君に一言申す!『演技と恋愛に絶対的データ』はないのよv」

そして、そう乾に笑いかけた。

「そうだな。」

乾も に笑い返した。


夕刻のチャイムの音。
そしてオレンジ色に染まったカーテンに二人の重なり合ったシルエットが小さく映っていた。



END






正真正銘の初夢小説。読み返すと恥ずかしい。いつ書いたか不明。この二人は何気に好き。

克己。