関東の真冬は寒いというよりも痛い。
それは空気が乾燥しきっている上に、風が強いからだという話を理科の授業中に聞いた気がする。


、ソレ貸せよ。」


私が乾燥しきった唇にリップを塗っていると、毎度おなじみの言葉をブン太に言われた。
冬場になると彼はいつもいつも私にリップを貸してと言う。
300円足らずなのだから自分で買えばいいのに。


「イ・ヤ・ダ。ブン太、昨年も、一昨年もその前も折ったもん。」



ただでさえ乾燥肌の私は、この時期リップクリームとハンドクリームが手放せないのである。
それを良く知っているブン太はこの時期、毎年決まって人のリップクリームを勝手に使うのだ。
そして、ご丁寧にも毎年毎年折って返してくれるのである。

「いやぁ〜、あの頃の俺は子供だったからな。」

「今も子供じゃん。」

「あれって、どれくらいまで伸びるのかその限界に挑戦してみたくならねぇ?」

「ならないっ!!!」


そんな理由でこの時期のリップクリームを折られてたまるか!
その一心で、ブン太だけには貸したくないのだ。


「どうしても貸してくれねーの?」

「だって、折らない折らないって毎年言って、毎年折ってるもん。今年こそは折らせませんっ!!!」

私が全力で怒鳴ると、ブン太がニヤリと悪戯っぽく笑った。
この笑顔を私は良く知っている。
悪巧みをしている時の顔だ。

「じゃあさ、要は俺がソレを使わなければ借りていいんだよな?」

「は?」

ブン太はリップクリームを指差すと、そんなトンチンカンな事を言った。
リップクリームを使わずに借りる?


「そんな魔法みたいな事出来るものならやってみなよ。」


私の言葉と同時に、私は左腕を思いっきり引き寄せられて、ブン太の顔がドアップになった。
止めるまもなく、私のリップを塗ったばかりの唇はブン太の唇と重なった。



「…ん…んん……」



しかもなかなか離してもらえず、ようやくブン太が唇を離してくれたのは
私が塗ったリップクリームがきれいさっぱりと剥がされた後であった。


「…あ〜、足りねぇや。おかわり。」

「……っバカ!!///」

飄々とした様子で、ブン太が何事もなかったようにさらっと言うので
私は泣きたいやら恥ずかしいやら、やっとの思いで叫んだ。

「ちゃんとソレには触れなかったろぃ。」

「こ、こういうのは好きなコとするもんでしょっ!」

「じゃあお前、俺キライ?」

「キライじゃないけど…」

「俺はお前が好き。だから、俺的には問題ねーよ。」

「あのねぇっ!!!ブン太的に好きとかそういう問題じゃ……スキ?」


今、さらりと信じがたい言葉が聞こえた気がするんですけど?
ブン太はまったく動じた様子もなくご愛用のグリーンアップルガムを膨らませてる。

冗談…だよねぇ?

「そんな事より、 がソレ貸してくれねぇんなら、この冬中はお前がリップクリーム代わりだからな。覚悟しろぃ。」

「え…」


リップクリームを折られるのと
リップクリームになるの
果たしてどっちがマシなのだろうか?

どっちにしても、ブン太くんが得することに変わりはないようである。







1万Hit&1周年企画夢でこちらはフリー夢です。
お気に召しましたらお持ち帰りくださいませ。

ちなみに私は、関東の冬にからっきし弱いです。
雪が降ってくれると、乾燥せずにありがたいのですが。。


2005年01月10日   克己