あの頃の二人は繋いだ手や
抱きしめ合ったこどもの温かい温度が心地よくて
よく一緒に眠ったね。

風の音やおばけやびょうきや恐いモノが
手を繋ぐと不思議と恐くなかったから。

そんなことをしなくなって
どれくらい経つのだろう?















「ジローちゃん〜!!また枕干しっぱなしだよ〜!!」

どんなに叫んでも返事が無い。
どうやら眠り姫ならぬ眠り王子はまたも夢の中に旅立っているようだ。
私は意を決すると、二階の自分の部屋の窓から自分の家の屋根へと降りた。


「ジロー!!ジロ助!!雨降るってよ!!君のダイスキな睡眠アイテムが雨でぐしょぐしょにな
るってば!!」


こんなに必死で叫んでるのにやはり返事はない。
だが、空はいよいよゴロゴロと唸り声を上げて、涙を流す予告をしている。




考えている暇はないようだ。
愛らしい羊柄のプリント枕を死守するべく私は思い切って
次郎の家の屋根へとダイブすることにした。




本当はかなり危険極まりない行動だがいたしかたない。
もし万が一、あの枕が燃えるごみ行きになってしまったときの
次郎の悲しそうな顔だけは見たくないのだから。





「せーの…」


ドコッ。



見た目より距離はあったモノの我が家と次郎の家の間は1メートル弱。
なんとかなるものであった。



「ふぅ、成功。あとでジローちゃんになにかおごってもらわないと割りに合わないなぁ。」



お日様の光をたべてふわふわの枕をぎゅっと抱きしめると
お日様とジローの匂いがした。



「よかった…枕助けれて。」








ピッカーッ!!!!





「え?」



安心したのもつかの間で
急に視界が全て真っ白になった。
これはまさか…




ドドーンッッッ!!!





「キャ…ギャアァァァァ!!!」



あまりの凄い音に、私は枕を抱きしめたまま両耳を塞いでしゃがみこんだ。
そのため…





ズルッ。





「え…?」





気が付くと私の身体は慈郎の家の屋根からずり落ちかけていた。





「…だ、誰か助けて!!」






かろうじてとっさに出した左手が屋根を掴んだものの長くは持ちそうにない。
2階とはいえ屋根から落ちたらそうとう痛いだろうな。
どうしよう…。



じわりと左右の目から涙がこぼれてくる。
打ち所が悪かったら死ぬかもしれない。
そんな考えが頭をよぎった。




「…ジ、慈郎ちゃん…。」




ごめんね。
羊さん枕守れなかったよ。






そのとき
タイミング良くガラッと慈郎の部屋の窓が開いた。




?!バカっ!!お前何やってんの!!」

「ジ、ジローちゃん!!」





流石はサーブ&ボレーヤ―!!(意味不明)
慈郎はすばやく屋根に跳び乗ると左手で窓のサンを掴み、右手で私の左手を引きあげた。



九死に一生を得るとはまさにこのことだ。




「た、助かった…。」


思わず身体の力がふにゃっと抜けて、私は慈郎の肩に寄りかかった。



??こんなとこで寄っかかるとやっべーだろっ!!ホントに死んじゃうだろー!!」




ピカッ!!




また目の前が真っ白に光る。
私の身体は無意識に慈郎にしっかりとしがみついて顔を伏せた。



「…あ!そっかぁ。」



慈郎は私を窓に近づけたので、わたしは無言で窓から慈郎の部屋に入った。
二人が室内に入ると慈郎は窓を閉めてからわたしに問いかけた。

「まだ『カミナリ様』が恐いの?」






…ギクッ。





わたしは真っ赤になると
枕に顔をうずめて
慈郎のベットに転がるとつぶやいた。





「…しょうがないじゃん。恐いモノは恐いもん。」






ポスッ。







背中に温かさを感じた。
恥ずかしくて枕から顔を離せないけど

慈郎が両腕ですっぽりとわたしを抱きしめてるのがわかる。


温かくて
なんだかホッとする温もり。
不思議と雷の音も恐くなかった。







、ありがとー。カミナリ様駄目なのに俺の枕助けてくれて。」

「…だって、濡れちゃったら羊さんが可愛そうだったから。」




相変わらず顔があげられない。
もっとも今度は慈郎がしっかりと抱きついているため動けないだけなんだけど。




「よし。お礼に雨が止むまで俺の枕貸してあげる。」

そういいながら慈郎はギュッと を抱きしめる手を少し強めた。

「え?えと、ジローちゃんは???」



三度のご飯よりもお昼寝がダイスキな慈郎ちゃんが。
しかも、部活帰りでヘトヘトでお昼寝したいだろう慈郎ちゃんが。
自分の大のお気に入りの枕を貸してくれるなんて。

わたしがビックリした様子で尋ねると
慈郎は少し眠そうな、でも明るい調子で答えた。




「俺は がいるから大丈夫〜。」




!!!





「な、ななな、何を言ってるの。ジローちゃん。」

「…zZZ」


慈郎は、わたしを抱き枕代わりに夢の中。
ぽかぽかして
外は暴風雨なのに
まるで陽だまりの中のような気分で気が付くと私も寝てしまった。




小さい頃は…よく一緒に眠って
一緒の夢をみたね。
小さい頃と同じように…




この温もりが
いろんな恐い事から守ってくれている気がした。
まるで





羊さんの子守唄。










ついに手を出さないと思っていた領域に。
このままでは宍戸とか書いてしまいそうな気配です。
ジローちゃん難しいなぁ。

2004年9月20日    克己