「まぁ周助ったらモテモテね。こんなに貰ってきて。」

そうおばさんに言われて、しゅうすけはいつものふんわりとした笑顔で笑った。

「クラスの女子がくれたんだもん。あと、げた箱にはいってたりしてた。」

「これじゃあお返しも大変ねぇ。」


おばさんがため息をつくとしゅうすけは話を切り替えるように

「ボク、 ちゃんと遊んでくる。」とおばさんに言った。

「いってらっしゃい。 ちゃんよろしくね。」


おばさんの言葉を聞いて、わたしはちょっぴり照れくさくなりこくりとうなずいた。


ちゃん、行こう。」

そう言ってしゅうすけがわたしの手をしっかりとにぎってくれた。
だから
わたしは小さな小さなジェラシーを打ち消す事が出来た。
そのときは。



































鳴り響く目覚ましの音。

いれたての珈琲の薫り。

!遅刻するわよー!!」
階段下から聞こえる母の声。





どうやら
幼い頃の夢をみたらしい。







(…嫌な夢をみたなぁ。)
とても懐かしくて切なくなってしまう夢。

そっか。今年もこの日が来たわけだ。

小学校1年生のあのバレンタインから周助は沢山のチョコの山を貰うようになった。
しかも律儀なことに全部受け取り、きちんとお返しまでしている様子である。
そして
私の心は毎年のように、この日嫉妬心の嵐になる。




(あーぁ、きっと今年も渡さないのかもな、チョコ。)




私は自分の鞄をふっとみた。
青いリボンの付いた小さな包み。
毎年渡そうとしては渡せない大きなキモチ。





















「ねぇ。 ちゃんはチョコレートくれないの?」

公園のブランコをこいでいるとしゅうすけがふいに聞いた。

「しゅうちゃんはわたしのチョコほしいの?」

「うん。」

「あんなにたーくさんもらったのに?」

わたしはぎぃっとブランコをひとこぎした。

「だってボク…」




(あれ?…なんだっけ?)








そこだけぼんやりと霧がかかったように思い出せない。

自慢じゃないが記憶力の悪さはピカイチだ。

よくそれで周助に笑われるんだから。













「わかった。十年…よ。約束ね。」

「うん。ゆびきりりげんまんしよー。」












(指切りまでしてるのにわからない…。どうしよう。)

私は小さくため息をついた。

(なにか大切な事の気がするのに。周助は覚えてるのかなぁ? )















?なにやってるの?」

噂をすれば影。

聞き覚えのある声が耳に響いて、私はふと我に返った。
ここは学校の靴箱の前。
どうやら私はぼんやりしつつもちゃんと学校に辿り着けたようだった。


「あ、おはよう。」

「うん。おはようv」

心なしか周助はいつもより上機嫌にみえた。

(…チョコ貰うのがそんなにうれしいのかねぇ。)


周助は不思議そうな顔で私をみると靴箱に手をかけた。
すると…
戸を開ける音と共に…あのイヤな音がした。










バラバラバラッ。









大小様々な箱がおちる音。






毎度聞いているにも関わらず相変わらず心に刺がチクチクとささる。









「(はぁ)まぁ今年限りだからいいか…。」


周助が小声でなにかつぶやいたけど今の私には右から左。

馬の耳に念仏。

まったく聞いていなかった。





「… ?」

「え?」

「元気ないみたいだけど大丈夫?」

「そ、そう?」

「そういえば毎年、この日になると妙に元気ないよね。」

(うっ。さすが周助…スルドイ。)

「あ!」

私はふと思い出したことを質問して話をそらそうとした。

「ねぇ周助!小1のときのブランコでの指切り覚えてる?」

「うん。覚えてるよ。」

「本当?!実はあのとき指切りしたコトまでは今朝思い出したんだけどね…」






ここまでいいかけると

周助は恐いくらい満面の笑みを浮かべてこう聞いてきた。



「まさか ってば、いくら忘れっぽいからって自分で言い出した約束忘れちゃったなんていわないよね?」

「えっ、えっと…。」

「ボクはちゃんと忘れずに今日まできみとの約束守ってきたんだけど。」

(笑ってるけどこれは…怒ってる。。)

あまりの恐怖にわたしはあとずさった。

「で、 は覚えてるの?」

「な…あは、あははは。」

「(ふぅ)やっぱり」

周助はため息をつくとかなりがっかりしたようにみえた。

が今日中に思い出さなかったらあの約束は無効だからね。」



そう言い放つと
周助はとっとと教室に行ってしまった。




(…なにそれ?)


よくわからないけどあの約束はわたしと周助にとってよっぽど重要らしい。

だが私のちんぷな脳みそじゃさっぱりわからない。


(六歳の私め!約束ってなんなんだよぉー!)













「ねぇ、英二。」

休み時間。

周助は、今日の収穫を「10時のおやつ〜♪」と幸せそうに食べている英二に話しかけた。

「ん?なにー?」

「6歳の頃の約束を覚えてろって無茶な話かな?」

「ろくさい?そーだにゃー。」

と英二は考える人のポーズをした。

「普通の人なら覚えてるんじゃん?だって物心もついたあとだろ?」

「そうだよね、普通なら。」

「でもさ、人によるかもなー。」

「え?」

「不二が言ってんのって不二の幼なじみのコのことでしょー。」

「英二にしてはカンがいいね。」

「俺にしてはってなんだよー!」

英二はぷんぷんとふくれっ面をした。























一日中悩んだけどわからない。

だんだん考えるコトに疲れて

私は5時間目にはいつにまにか寝てしまっていた。
















「ねぇ。 ちゃんはチョコレートくれないの?」

(あれ?これってあのときの…。)

「しゅうちゃんはわたしのチョコほしいの?」

「うん。」

「あんなにたーくさんもらったのに?」

小さなわたしがぎぃっとブランコをひとこぎした。

「だってボク、 ちゃんのチョコ以外いらないもん。」

(えっ?)

「ボクがたいせつにしたいのもおよめさんにしたいのも だけだもん。ほかの子の事なんてどうだっていい!」




「しゅうちゃん…。」

小さなわたしはブランコをこぐのをやめた。

「わたしもしゅうちゃんが大好きだよ。わたしがおよめさんにしてほしいひとはしゅうちゃんだけだもん。」

「え?ほんとに?」

「うん・・しゅうちゃん。女の子って16さいでけっこんできるんだよ。」

「?」

「だからね、十ねんごの今日に、わたししゅうちゃんのところにチョコレートもっていく。

そのときにしゅうちゃんが、チョコもらってくれたら。

そのときからわたし、しゅうちゃんのおよめさんになるから。

だから、だからね。ほかの子のことをどうでもいいなんていっちゃダメだよ。」




(あ、そっか。。)

「そんなこと言うしゅうちゃんはキライだからね。」

(わたし、こんなこといった・・・。)

「だからね、罰としてそれまではチョコあーげない。」

「えっ?!」

「ひとにやさしく!だよ。守らなかったら十ねんごもあげないからね。」

「…わかった。十ねん、ボクまつよ。…二人の約束だからね。」

「うん。ゆびきりりげんまんしよー。」

「ゆびきり?」

「うん!そしたら絶対わすれないもん。」

くすっと小さいしゅうすけがわらった。

ちゃんてばわすれっぽいからなぁ。」





小さなわたしとしゅうすけはぶらんこでゆびきりをした。











(ご、ごめんね。周助・・・忘れてたよぉ・・・・。)






















「周助ーっ!」

放課後の帰り道、私は周助の背後から声をかけた。

「… 。」


私は覚悟を決めると
両手で青いリボンのついた小さな包みを周助に渡した。


「…約束思い出したんだ。」

とたんに周助は穏やかな表情になった。

「…貰ってくれるの?」

私は上目遣いで周助をみる。

「当たり前でしょ。十年待たされたかいがあったよ。」


そういうと周助はラッピングのリボンをほどいた。

「本当にボクと結婚してくれるの?」

「うん。だって十年間ずっとスキだったもん。もう周助以外…ありえないよ//」

わたしの言葉を聞くと周助は本当に嬉しそうに笑った。

「よかった。 のせいでだいぶ遠回りしちゃったからね。」

「ご、ごめんなさい。だって周助が私以外どうでもいいなんていうから。」

「(くすっ)だって本心なんだからしょうがないでしょ。今だってそう思っているもの。」





そう言うと周助はふわふわの青いリボンを私の左手に結んだ。


「はい、とりあえず指輪の代わり。」


そういって周助は私の身体に腕を回した。


「これでもう逃げられないからね。 はボクのモノっていう証。」


そういって周助はにっこり微笑んだ。



「周助…。」

私は嬉しいような照れくさいような妙な気分になる。

「さてと、誓いのキスは?」

「ちかいのきす?」

「だってボクがチョコ受けとったからもう『ボクのお嫁さん』でしょ。」

「…うん///」

わたしはゆっくりと顔をあげて静かに目を閉じた。














きっとハタからみたらすごく変な光景だけど

私達はまるであの頃の遊びの延長のように

リボンの指輪と

ウエディングドレスの代わりの制服で

二人だけの秘密の結婚式をした。

















その日

わたしたちは十年の歳月を埋めるように

お互いの温もりを感じ

呼吸と鼓動をひとつにした











そして

周助は

数え切れないほどのキスを降らせてくれた。










『幼なじみ』設定はダイスキ。
バレンタイン夢楽しかった。


2004ねん2がつ8にち      克己