「しゅうちゃんのおたんじょうびっていつなの?」

「2がつ29にちだよ。」


そう答えると はカレンダーとにらめっこしてなやんだ。


「うーん、ないよ?」

「うん。ボク、4ねんに1かいしか、たんじょうびないんだもん。」


ボクがそういうと はなぜか泣きそうなカオになった。

「なんで?」

「わかんないけどそうなんだって。」


「…じゃあ、あたしもたんじょうび、しゅうちゃんとおんなじにする!そしたらさみしくないよね?」

「おんなじ?」

「うん。だから4ねんに1かいにするの。そしたらふたりでおたんじょうびしよう!

ふたりでプレゼントこうかんするの。」

「いいよ。たのしみだね。」

「うん♪」


















そんな約束から十年











毎日なにをあげるか悩んでいたけど

いいプレゼントが浮かばなかった。















今日が誕生日だなんて

僕は、すっかり忘れていたんだ。






















「姉さんおはよう。」


「ねー、周助。今日ってもしかして、あんたの誕生日でしょ。」


由美子姉さんにそう言われて僕は思わずカレンダーをみた。


2月29日…確かに僕の誕生日だ。


「あら。由美子ってば忘れてたの?

今日はご馳走作って待っているからって裕太と ちゃんに連絡してね。」


母さんは僕にそう言って焼きたてのスコーンの入ったバスケットを置いた。



?…あっ!




顔には出さなかったけど僕は内心あせった。

「ふたりでプレゼントこうかん」の約束はいつも忘れずにちゃんと覚えていたのに。

今日が当日だなんて…。

何をあげるかも考えていない。

































「不二っ!四歳オメデトー☆」


教室に入ると英二が元気いっぱいに駆け寄って来た。


「ありがとう。でも英二のほうがよっぽど四歳児だよね。」


僕がそう言って笑うと予想通り英二は膨れっ面をした。

「俺は16歳だよーだ。そんな事よりかなり色々貰ったんだー。」


英二は僕の両手にぶらさがっている大量の紙袋をみた。


「うん。まあね。」


はっきり言ってこんなに色々もらっても困るし、 以外からなにか貰ってもいらないんだけど。

また に『人にやさしく!』って怒られちゃいそうだから、

とりあえずみんなの好意を受け取ったまでなんだ。

「やっぱり四年に一度だと、四年分のエネルギーが一気に集結するんだにゃー。」



そういうと一人で勝手に関心したように英二はうんうんとうなづいた。
































放課後まで





僕は一日中なにをあげたらいいか悩んでいた。





あいかわらず決まらない。





そんななかで



「あれー?そういえばさ、今日は ちゃんに会ってにゃいよな。


いつもなら一回くらい不二のとこにくるのにー。」



英二にそう言われてはたと気が付いた。


(言われてみれば今日は朝から と一度も顔を合わせていないや。)


とたんになにか小さな不安が僕の胸の中に疼いた。


(いつもなら誕生日には朝一番に包みを抱えてあらわれるのに…。)


「あーあ、不二ってば、愛想つかされちゃったんじゃにゃいのー?」


英二のコトバが心をもやもやさせる。


(もしかして忘れてるのかな…誕生日。

…実は が僕の事好きでいてくれるっていうのも僕の慢りかもしれない…。)



そう思うと心にぽっかり穴が空いた気分になる。








「…そうかもしれないね。だから?何がいいたいの?」


僕のコトバに英二はまるで第六感が働いた小動物のように背中をビクつかせて黙った。


「にゃ、にゃーっ!!…ご、ごめん。」


「…。」


イライラする。



の事になるとどうしても冷静でいられない。



余裕を装っているけど、 の存在はいつでも僕の視野を惑わせるんだ。







練習中、かろうじて内心を隠していつも通りを装えたけど、


になぜ会えないのかを考えるとどす黒い感情が渦巻いた。

























「周助ー。」



家に入ろうとした瞬間、イラついていた僕の耳に聞き慣れた愛しい音が聞こえた。


一番心地良い声。


そして僕の感情を一番荒らす存在


「待っててー!今そっちに行くから。」


は嬉しそうに自分の部屋の窓からそう叫ぶと、すぐに僕のもとへと降りてきた。

胸が苦しくて

があまりに愛しくて


僕は夢中で彼女を抱き留めた。



決して僕から逃れられないように。



















「今日…どうしたの?」


そう僕がつぶやくと、 は意外そうな顔をした。

きっと僕が自分でも信じられないくらい弱々しい声で聞いたからだ。

「しゅうすけ?」


「… に避けられていたのかと思ってたよ…。もう僕なんか…キライになったのかと思った。」


































僕がそういうと





























はいきなり僕の襟元を掴み、自分の顔に僕の顔を寄せキスしてきた。







「… 。」









びっくりした。だって からキスしてきたのは初めての事だから。





「か、風邪で休んでたの。でももう熱も下がったから。」

よく見ると はパジャマ姿でカワイイ猫柄のハンテンを羽織っていた。

少し頬が薄紅に染まっている。抱き締めている身体がかなり熱い。

目が熱を帯びてうるんでいる。 は嘘をつくのが下手なんだ。



「熱まだあるでしょ?」

「…ばれた?」

 「バレバレ。」

「だ、だって周助に、ハッピーバースデーがしたくて//」


その言葉を聞いたら闇の感情が氷のように溶けていくのを感じた。



「え、えっと周助。4歳?16歳?のお誕生日おめでとう。」



そういうと は僕の手に『 』を置いた。


「いろいろ悩んだんだけど、周助のことを考えてたらそれになっちゃったよ//」

「(くすっ) らしいや。ありがとうね。」



そう言うと僕は気がついた。

になにをあげたらいいか・・・。

とっさにカバンを開けるとあるモノが目に入った。

(あ!コレなら…。)

僕はカバンからそれを出すと に手渡した。





「はい。僕からのプレゼント。」

「!」

はびっくりしてる。


だってそれは の大好きな…













「『星の王子さま』の英語版だーv」

「ゴメンね。僕のお古なんだけど。前に日本語版もらったからお返しv」





そう。


8歳の から貰った誕生日プレゼントは「コレ私の一番好きな本なのv」って渡された星の

王子さまだった。

僕もすっかりお気に入りになってしまった一冊だ。



「あ、でも私…英語苦手…。それにこの本読みかけだよね?ホントにいいの?

しおり挿んであるよ!」

僕は思わず笑った。

「いいんだよ。 と一緒に読むんだから。」

























余裕がなくなってしまうのはきみが愛しすぎるから。


代わりのない一輪の花。



「あ、そっか。なるほどね。」

「?しゅうすけ?」

「いま王子さまのキモチがわかったんだ。キツネの言うとおり、

本当にかんじんなことは目に見えないんだなと思って。

は他の十万の花と違って、ぼくのものになった花なんだなって。」

「王子さまは周助だよ。…だから花から逃げ出さないようにね。」

はそういうとしっかりと僕を抱き締めた。





































逃げ出さないよ。

一日傍にいないだけで

気が狂いそうになるくらい

君を愛しているから













不二くん、お誕生日おめでとう!!
『幼馴染』『約束』というのがキーワード。


2004ねん2がつ29にち         克己