「ねぇ、 。僕と結婚しない?」 付き合ってもうすぐ8年目。試合の遠征で忙しかった周助との久々のデートの帰り道。 いきなりこんな事を言われて はおもわず面くらってしまった。 「け、結婚?!」 「うん。」 「あはは。周助さんたら冗談上手いね。」 今までそんな話が微塵も出たことのない二人だったので はえらく動揺した。 「冗談?僕が冗談でこんな事言うと思う?」 「え、えーと…」 「だからね…」 と周助はなかば強引に の腕をひいて自分のほうへとひきよせた。 「僕は本気で をお嫁さんにしたいって言ってるんだけど。」 ぎゅっと抱き締められて は自分の鼓動が早くなったのを感じた。 「それとも は僕と結婚するの嫌?」 いつも楽しそうにニコニコしている彼が、今はちょっと寂しげな、真面目な表情で をみつめて いる。 「嫌なわけないよ!私も…周助さんのお嫁さんになりたいです//」 顔が蒸発しちゃうんじゃないかというくらい熱くなっているのを感じて、 は思わずうつむいてし まった。 「(くすっ)じゃあ僕と結婚してくれますか?」 「はい。喜んで//」 八年も付き合っていて、まだこんなにドキドキするなんてなんだかちょっぴり照れ臭かったけど 嬉しくなった。 このままこの温もりにひたってたいなあと思いながら私達はその場でしばらく抱き合っていた。 「いきなりですがみなさんに報告があります!」 数日後、私は中学時代からの仲良し友達とお茶しに入ったお店で堂々と手を挙げて発言し た。 「なぁに?」 檀がにこやかに質問すると、待ってましたとばかりに、私はおもわずにっこり微笑んでしまっ た。 「ワタクシ !!この度、不二周助さんと結婚する事になりました!!」 「……。」 あまりに唐突な話だったためか藍と涼はまぁるく目を見開いたまま固まってしまった。 檀さんは全てを見越したかのようにいつものにこやかな笑顔で穏やかにしているけど。 「藍?涼?なにをそんなに驚いてるの??」 すると二人はいきなり 「おかあさーん! が、うちの娘が!俺に無断で結婚するっていってるよー!」 「あらあら てば。とにかく一度不二くんをお夕飯に誘って連れていらっしゃい。」 「お母さん、それで『娘さんをボクに下さい』ってやられちゃったらどうしよー(泣)」 「式はどこのホテルでやるのかしら?お母さん、愛娘のためにウェディングドレス作ってあげた いわv」 「娘が欲しければ、不二君。俺と勝負だ!ってやるべきだろうか。」 「まあお父さんたら、テニスだけは持ち出さないようにね☆」 と両親ごっこをはじめる始末。 「そ、そこまで動揺する事?!」 「うん、ビックリした、ね、涼。」 「ね。 がいきなり結婚だって。唐突すぎだよー。」 「実は私もいきなりビックリしてるんだけどね。えへへ。まだあんまり実感ないんだけどさ。」 といいつつもさっきから顔がゆるみっぱなしになってしまう。 こんなに嬉しくて仕方ないなんて変な感じだな。 そんな私に水を差すよう檀は微笑んだ。 「うふふ。 も大変ね。」 「え?なんで?」 「不二周助といえば今や世界レベルのテニスプレイヤー。お茶の間のちびっこだってその名前 くらい聞いたことがあるような人よ!」 「あぁ、この前テレビ番組で特集組まれたくらいだしね。」 それを聞いて藍が口を挟んだ。 「え?!不二くんって特集まで組まれたの?」 と涼。 「うん。企画番で『世界に活躍する日本人(笑)』っていうのがあって本人がゲストで出てたよ。」 「それって茶の間番だよね?たしか。」 「うん。不二ってものすごい人気だよねぇ。妹が司会のヒトのファンでFAX送ろうとがんばってた けど全然だったし。 局前には出待ちが大量だったらしいよ。人気アイドル並みだね。」 「不二くんって新聞や雑誌でも有名人だもんね。」 「そうすると、もうすぐ雑誌やテレビにだいだい的にたたかれるわけよね。『日本の不二!熱愛 発覚!結婚宣言!お相手は 一般人の女子大生』とかなんとか。さすが超有名人!」 「…そうなんだ。そうなんだよね。そんな超有名人と…私なんてつり合うのかな…。」 だんだん私はみんなの話を聞いていたら、なんともいえない漠然とした不安に襲われていた。 「 ?」 「自信持ちなよ。不二くんが を選んだんでしょ?」 「…でも私なんかでいいのかな。私、周助さんにとって本当に必要?」 思わず泣きそうになるのを必死で堪えた。 「…ひとつだけ言えるのは、必要なかったら八年も一緒になんていないと思うけど。」 「藍?」 「違うかな?(にやり)」 「…そっか。そうだよね。ありがとう。」 そういいつつも胸がさっきからチクチク苦しいのは納まらなかった。 なんだろう?この気持ち。 周助さん。 苦しいよ…。 その日の夕方、私は公園のブランコに座っていた。 あのあとぼんやりしててみんなと何を話したかも覚えていない。 気が付いたらここにいたのだ。 「…周助さん。」 意味もなくダイスキな人の名前を呼んでみた。 なぜか切なくて涙がこぼれた。 「…結婚かぁ。」 あんなに嬉しかったはずなのに。今は足元に大きな穴がぽっかり開いたみたいだ。 周助さんはなんで私にプロポーズしたんだろう。 そんな事を考えてたらまた涙が溢れてきた。 「 ちゃん?」 聞き覚えのある優しい声がした。ふりかえるとそこには 「…由美子さん。」 周助のお姉さんの由美子さんがいた。 「どうしたの?!周助になにかされた?」 どうやら泣いていたのをみられたらしい。 私は声が出せなくておもいっきり首を左右にふった。 「でも周助の事が原因なのね。」 由美子さんはそう言って私の頭を優しく撫でた。 由美子さんから良い香りがして少し安心した。 安心すると再び私の頬から雫が流れた。 まるで涙腺が壊れてしまった子供のように私は泣き続けた。 由美子さんは私が落ち着くまでしばらく黙って横にいてくれた。 「由美子さ…ん、私…どうし…たらい…いかな…。」 泣きじゃくりながらやっと絞りだした言葉に由美子さんはまた頭を撫でてくれた。 「うち来よっか。今なら周助いないから。 ちゃん寒いのにずっと外にいたでしょ。少し暖まった ほうがいいよね。」 と由美子さんに連れられて私は不二家へと運ばれた。 「はい。よかったらどうぞ。」 由美子さんは私をリビングのソファに座らせるとココアの入ったマグカップを渡してくれた。 「あ、ありがとうございます。」 「落ち着いた?」 「はい。ご迷惑かけてすみませんでした。」 「いいのよ。可愛い未来の妹のためだもん。」 「あ…」 思わず私は由美子さんから目線をそらしてしまった。 「もしかしてもしかしなくても結婚の事…?」 「え?…占い師さんってそんな事までわかるの?」 「ふふふ。みてれば占い師でなくてもわかるわよ。 ちゃん、マリッジブルーになってるみたい ね。」 「まりっじぶるー?」 「結婚直前になって急に不安になったり、悲しい気持ちになったり。私で本当によかったのか な? あのひとで本当に良いのかな?そういう気持ち。」 「あ…。うん、そうかも。」 「こういう事は自分だけで考えこんでも『悪いほうへ悪いほうへ』行くだけだからね。 きちんと『話して』みなさい。でも、結論を出すのも自分自身だけなんだよ。」 「…由美子さん。」 「さてと、ゆっくりしてって。私は今から ちゃん専用にラズベリーパイを焼いてくるから、ね。」 と由美子さんは席を立つとキッチンに向かった。広いリビングに私はひとりになった。 「ちゃんと話す…決めるのは私…。」 カチャッ。 ドアの開くオトがした。 「周助さん…。」 今一番逢いたくて 一番逢いたくない人。 「?どうしたの?」 周助のいつもの柔らかい口調と表情をみたら考えるより先に言葉が出ていた。 「周助さんは、なんで私と結婚しようと思ったの?」 周助はゆっくりと私の側に歩いてきた。 「 となら、嬉しいときも楽しいときも、悲しいときも辛いときも、 色んな気持ちをふたりでずっと半分こしていけるって思ったから。」 「私、周助さんの傍にいていいの?」 私の目から大粒の涙がこぼれ落ちた。 「僕は の事を愛しているからずっと傍にいて欲しいよ。」 「…///」 周助はそっと、ソファーに座ってる私の背中に腕を回して、私を包んでくれた。 「僕はね、 はちゃんとそばにいてくれて、僕の事一直線に一生懸命追いかけてくれるコだって 思ったんだ。中学の時に。」 「ちゅ、中学の時?!!だ、だってそれってつきあい始めた頃??」 「(くすっ)あの頃、 ってばいつも一生懸命僕のこと追っかけてたでしょ。」 「(かぁぁ)そ、そんなこともありました///」 「僕の事に一生懸命で、そのせいでよく手塚に怒られてたよね。」 「あはは///(苦笑)」 「なんか始めは『おもしろいコ』だなって思ってたんだけど、つき合いをもっていくうちに目が離 せなくなった。」 「そ、そうなの?」 「うん。可愛いなって思った。」 「か、可愛い??」 「一途でけなげでまっすぐで、「あぁ、このコはなにがあっても僕についてきてくれる」って感じ で。」 「…//。」 「…僕はこれから先、あちこち海外に行くことになると思うんだ。」 「…うん。」 「でも なら僕が地球上のどこに行こうと傍にいてくれるかなっておもってるんだよ。」 「周助さん…。」 「どう?納得した?僕にとって はものすごく大切な存在なんだけど。」 「…うん///」 「結婚しようって今まで言えなかったのは『結婚』という目に見える鎖で を繋いでしまう気がし て言えなかったんだ。 でも、遠征が増えて、世界でテニスをするようになってしまったから。」 周助の心音が聴こえた。 「正直、今までみたいにいつでも逢えなくなってしまって… はいつも追いかけてくれたけど。」 ドキドキしてる。 いつのまにかホントは僕の方が を必要としてて…だからどうしても結婚して欲しくなったん だ。」 周助はそういいながら私の髪に触れた。 「でも、 を不安にさせてゴメンね…。」 私は周助がその言葉を言うか言わないかののときに、周助の方に身体を向けて周助の唇に 自分の唇を重ねた。 「 ?」 さすがの周助もビックリしている。 私からキスするなんてめったにない事だから。 「私も周助さんが必要だよ。周助さんが私を必要なのと同じだけ、私も周助さんが必要。」 驚いている周助に私は続けた。 「だから、私をずっと周助さんの傍にいさせてください。」 「ねぇ、 。」 「なに?周助さん。」 「 からもう一回キスして(にっこり)」 「えっ//」 「そしたらもう不安にさせないから。僕達がおじいちゃんおばあちゃんになっても『結婚して良か った』って思うくらい大切にする。」 「//(こくり)」 私達はさっきと比べものにならないくらい深くて長い口づけを交わした。 何度も何度も唇を重ねているうちに私は気持ち良くなってぼーっとしてしまう。 気が付くと私はソファに押し倒されていた。 そして、 この展開に身の危険を感じた(笑) 「ちょ、ちょっと周助さん?!」 「ん?」 「ここリビングだよ!」 「?知ってるけど?」 「ダメだよ。誰か入ってきたら…(汗)」 「平気だよ。」 私は必死で周助から抵抗したが、なにせ相手はスポーツ選手。 しかも世界が誇る不二周助だ。かないっこない。 「だ、ダメだってば!」 「(にこり)さぁ観念してね。」 バタン。 そのとき幸か不幸かある人物がドアを開けた。 「ただいまぁ…って兄貴!つーか サン?!」 そう。 そこには不二周助の弟君の姿があった。 「あは…あははは。周助…。」 私は周助をにらみつけた。 しかし周助はまったく動じてない様子。 「アニキ…なにしてんの…。」 「(にっこり)駄目だよ、裕太。こーゆーときは気を利かせて、気付かないふりして出なおさない と。」 「居間でイチャつくな!やるなら外行けよ!」 「(くすっ)なに、裕太ってばヤキモチ?」 「断じて違う!馬鹿アニキ!!」 「…(苦笑)」 よりによって祐太くんが乱入してくるとは思わず、その上兄弟喧嘩(?)まで始める始末。 はちょっっぴり気まずく思った後 (まぁでも、お母さんや由美子さんじゃなくてよかったぁ…) と内心ほっとしていた。 その夜 私は夢をみた。 まっしろいウェディングドレスと小さな教会。 白いベールを周助がめくりあげて 誓いのキスをする夢。 私たちは 人生を半分こして生きていきます いつか 空に還る日まで。 慎々さんのキリリクで書かせていただいた『不二夢でマリッジブルー』。 不二一家大好きです。 2004年1月19日 克己 |