真剣になるつもりなんてこれっぽっちもなかったんだ。 それなのに 今は… −どうしても君がいい− 『とりあえずお試しで一週間付き合おう』 この約束から4日目の夕方、赤也から に電話があった。 『もしもし? ちゃん?』 明るい赤也の声が受話器から聞こえた。 『はい。どなたですか?』 『やだなぁ〜。俺っスよ。』 『…オレオレ詐欺はお断りですが。』 『そんなー仁王先輩じゃないんから。』 『…誰ですか。』 『あぁもぅ、恋人の声もわかんないかなぁ。』 心なしかちょっとイラついて聞こえた。 『…私にはお試し期間とやらの仮恋人?しかいませんが…って赤也くん??』 『気づくの遅っ!』 『デンワ苦手なんだもん。で、何ですか?』 が不思議そうに尋ねると赤也の声のトーンが低くなった気がした。 『…今から立海(こっち)来てくんない?』 『は?』 『…あ、充電切れる。とにかくここで待ってるから。』 …プッ。 ツーツー。 なんでかわからないけど デンワが切れると同時に は家を飛び出した。 なんでかわからないけど 馬鹿みたいに走った。 の自宅から立海大付属中学まではかなりの距離がある。 そのうえ立海の場所なんて はまったく知らない。 が学校にたどり着いたときにはあたりはもう暗くなっていた。 「赤也く〜ん?」 あれから二時間近く経っているわけで赤也が待っている可能性は極めて低いと思った。 (この学校広い…たぶんテニスコートだろうけど…どっちにあるんだろう?) 「…もう帰ったよなぁ、さすがに。」 そう思っているのに。 いるかもしれないと思うと帰れなくて。 は立ち往生していた。 「おい、部外者は立ち入り禁止だ。」 背後から声をかけられて は振り返った。 長身のキャップを被った男がしかめっ面で立っていた。 「…テニスバック…もしかしてテニス部の方ですか?」 「ん?そうだが?」 「…あの切原赤也くんってまだ学校にいますか? 」 「赤也の知り合いか? 」 「えぇ、まぁ。」 「まだ部室に残っているハズだが。あそこだ。」 「エッ!本当ですか?!ありがとうございます!」 はペコリと頭を下げると部室のほうへ走っていった。 「赤也くん?!」 が部室のドアを勢い良くあけると 切原赤也がロッカーにもたれかかって眠っているのを発見した。 起こすどうか真剣に悩んだが 起きてもらわないと自分も帰宅できない。 そのため は赤也を起こす決断をした。 「赤也くん、起きてよっ!」 「…ん…。」 「ちゃんと来たから!」 「… …。」 赤也は半分寝言のようにそうつぶやくと の肩に寄りかかってきた。 小さな寝息が聞こえる。 「赤也くんっ!おい!コラ!起きろっ! 」 は赤也の肩を掴むと揺らした。 「…アレ? ちゃん…朝ッスか?」 「何寝ぼけてんの!今放課後です!赤也くんが呼び出したんでしょ!一体なんの用です か?!」 その言葉を聞いたとたん赤也は飛び起きた。 「 ちゃんっ?!マジで来てくれたの…?」 「マジで来ました。…冗談だったんですか?」 「さすがに冗談じゃないぜ。でも…まさか本当に来てくれるとは思わなかった。」 「…私も待ってると思いませんでした。」 「そうだよな。俺も…なんでかわからないけど馬鹿みたいに待った。どうしてッスかね。」 赤也はそういいながら小さく笑う。 でも にはなぜか赤也の笑顔がいつもと違う気がした。 「…どうしたの?」 「ん?」 「なにかあった?」 「なんでそう思うの?」 おどけたように笑う赤也が の目には辛そうに見えた。 「…なんかわかんないけど…なんか元気ない感じがする。」 赤也は驚いた表情で をみつめたが、やがて俯くと小さくつぶやいた。 「…待ちきれないかも。」 「え?」 「結論、出してもらえない?」 「何言って…だ、だって一週間って言ったの赤也くんでしょ?」 だが の言葉が耳に入っていないのか赤也は にせまってくる。 「 は俺の事キライ?」 「嫌いじゃない…けど。」 瞬間、 は床に仰向けに押し倒されていた。 「なら俺のモノになってよ。」 の唇は答える間もなく塞がれた。 逃げようにも両手はしっかりと床に押しつけられている。 「…あ…かや…くん…。」 「なに泣いてんの?」 「…っく…。」 自然と涙がこぼれた。 なんでかわからないけど。 の両手を押さえる赤也の手が力を強めた。 「…挑発してんの?」 「…っちが…」 「じゃあこれは何?」 赤也は の瞳に溜まった液体を舐めた。 「ひゃっ!…コレは赤也くんの…」 「俺の?」 「…涙…だと思う。」 「…なにそれ?」 はしっかりと赤也の瞳をみた。 「…赤也くん泣いてたでしょ?」 「泣いてなんかいないけど。」 「…涙のアトが残ってる。」 赤也が意表をつかれたような顔をした。 「…まいったなぁ。なんでわかっちゃうの?」 すぅっと腕の力が緩む。 赤也は の手を掴むとそっと上半身を起こしてくれた。 「さぁ?なんとなく。」 が微笑むと赤也は再びロッカーにもたれかかった。 「…うちの部長…むちゃくちゃ強いんっスよ。」 赤也は淡々と に話した。 自分がまだ部長に勝ったことがないこと。 幸村部長が入院する事になったということ。 そして昨夜 かなり難しいを手術しなくてはならない事が決まったのだそうだ。 はずっと赤也の話を聞いていた。 「ゴメンねぇ。こんな話しちゃってさ。」 赤也がぽつりと最後にそう言った。 は思わずぎゅっと赤也を抱きしめた。 「… ちゃん?」 「泣いていいよ。泣き顔見ないからさ。」 「…。」 「私、赤也くんに救われたんだから、今度は私が救いたい。」 そういいながら赤也の後頭部を優しくなでる。 「もうひとりで泣かないで。辛いときは私に打ち明けていいから。」 「…く…っ…。」 赤也の目から雫が落ちたのを肩に感じた。 小さく嗚咽する身体を抱きしめていると 私の目からも少しだけ涙が流れた。 「うわぁ〜。すっかり夜になっちゃったよ。」 二人は夜道を並んで歩いていた。 「かなり遅くなっちまったけど ちゃん時間大丈夫?」 「う〜ん。あはは、ヤバイかも。 」 は笑いながら空を見上げた。 「明日もいい天気だね!空が綺麗だし。」 「…俺、どうしても がいい。」 赤也が立ち止まった。 「最初は冗談のつもりだったんだぜ。たまたまボールがぶつかって。」 は振り返る。 「でも『ありがとう』って言ったときの の顔が印象的で。」 はゆっくりと赤也に近づいた。 「一緒に遊んだり、話しているうちにどんどん気になって。」 そっと赤也の手が の髪に触れる。 「実はさ…部長の手術の話聞いたとき、何も考えれなくて、頭ン中真っ白になってて…」 は赤也の事を上目使いに見上げた。 「…誰の顔も浮かばなかった。それなのに気がついたら の笑顔がちらついて。無意識に… 電話かけてて。」 「…。」 「電話切れたあと…本当は不安でいっぱいだったのに…来ると思ってなかったのに… 来た から。だから…俺…」 は赤也の胸に飛び込んだ。赤也はしっかりと を抱きしめる。 「…き…って言われてない。」 「え?」 「まだ好きっていわれてない。」 そのコトバに赤也は囁くように答えた。 「…好きだよ。」 「本当に?」 「本当っスよ。だからちゃんと付き合ってくれる?」 は小さくうなずいた。 「私も…赤也くんがいい。」 赤也が笑う。 「まだ好きっていわれてないっスけど?」 「うわ…意地悪。言わなきゃ…わかんない?」 赤也はそっと抱きしめていた腕を緩める。 「なに言ってんの?俺ちゃんと言ったぜ。言わないなんて卑怯だよねぇ?」 は真っ赤になって俯く。 「うっ。…ス…ス…。」 「す?」 「…スワヒリ語…って難しいね?」 「…で?」 「……ス……SMAPカッコいいよね?」 「それで?」 「ス…ス…スキンヘッドの黒人さんって生で見たことないなぁ〜。」 「いや、俺の先輩にいるから。」 「え!マジですか?!」 「マジだぜ。…で、 ちゃん。いい加減にちゃんと言わないと…。」 の顎を右手で持ち上げた。 「襲うよ。」 をみつめていた赤也の目が鋭くなる。 「…お、脅しじゃないですか!」 が赤也に怒鳴ると、赤也は から手を離し、涼しい顔で答えた。 「言葉か態度のどっちかで意思表示してって言ってるだけなんだけどなぁ。」 「うぅ…。」 「まぁいーや。」 「ふぇ?」 再び赤也は に近づくと耳元で呟いた。 「俺以外、他の誰も欲しくないって思わせてやるから。」 あまりの恥ずかしさのために は赤也の右肩に顔を伏せた。 「…好きですよ。」 「え…なに?」 「な、なんでもないです!!…一度しかいいません。」 「ふぅ〜ん。そんな事言ってられるのもいまのうちかもよ。」 「…//」 そんな事言われなくたって 本当はもう 君以外他の誰も欲しくないから。 『どうしても君がいい』とりあえず完結。 ややシリアスめ。こーゆー赤也もたまにはあり? 『どうしても君がいい』はシリーズモノとして続きます。 克己 |