貞治とはだいたいにおいて趣味思考が対だった。

例えば、あいつの好きな色は黒だが俺の好きな色は白。
あいつは比較的こってりした洋風の食を好むが
俺は薄味な和食を好いている。


だから

こんなときばかり俺達の“好き”が被らなくても良いだろうがと思う。
ましてや俺が転校して4年と2ヶ月15日という歳月がたっていたというのに。

テニス以外でアイツと争うなんてデータにもない話だった。

















「柳さん、お疲れさまです。」

貞治との4年と2ヶ月と15日ぶりの試合の直後。
振り返ると予想通りバトン部の2年 が俺の後ろにちょこんと立っていた。


「あぁ。」

「試合負けちゃいましたね。」

「本当にお前はズバッとキツイ事を言うな。」

「そんなコトないですよぉ〜。」


おかしそうに笑うと、 は背伸びしてチョンっと俺の額を指で弾いた。
そんな仕草が可愛くて思わず愛おしくなってしまう。
もっとも俺の気持ちに は気づいてなどいないのだが。


「どうでもいいが、そんな短いスカートで背伸びしないほうがいいぞ。」

「?スカートが短いのはユニホームですから。とにかく貞治くんとの試合面白かったですよ。」

「そうか…ん?」

「どうしたんですか?」

「…お前、貞治と知り合いなのか?!」

「え、あぁ、実は…」

ちゃん、やはり試合観に来てたんだな。」


タイミング良くというか悪くというか
噂をすれば影
貞治が俺達の前に現れた。


「あ、貞治くんお疲れ。試合面白かったよ。」

「ありがとう。だが、蓮二はやはり手強い。俺も危なかったよ。」

「そりゃ柳さんは三強の一人だから。次は負けないですよね。」

「…あぁ。ところで、お前らどういう関係だ?」


自分の顔が曇っているのがわかる。
聞きたくないとは思いつつも言葉が先行してしまう。
それを察してか否か、貞治はニヤリと笑うと俺に言葉を返した。


「教授。お前に言えない関係だ…と言ったらどうする?」

「ちょ、ちょっと貞治くん?!!!」

「当ててみろ。」

「…は?!!」

俺とした事が思わずビックリして目を見開いてしまった。
そんな俺を は更にビックリした顔でみてる。


ドクン



妙な不安感が、俺の胸に大波となって押し寄せてきた。
背中に試合中のモノとは別の汗が流れている。



「…両親が離婚して別姓になった兄妹。」

「その確率は0.00024%だな。というかないだろう。」



ドクン



「未確認生物とファーストコンタクトをとった人間。」

「ちょっと待て、教授。それは俺が未確認生物というコトか?」



二人が知り合いだという事自体今しがた知ったのだ。
一番考えたくない答えを俺の脳内が割り出さないようにしている。


「『乾汁考案委員会〜健康と食を考えよう〜』の会長と理事。」

「蓮二…お前にしては大混乱だな。」


貞治がおかしそうに先程からニタニタと笑っている。
くそっ。
面白くない。




「…そうか。」



気がついたら俺はその場を後にしてた。
全速力で走っていた。


考えたくないのに。
違うと思いたいのに。
考えてしまう。



恋人同士なのではないかと







俺は人だかりから離れたところまで来ると、芝生に半ば倒れるようにして座り込んだ。
まるでいつもの自分らしくない。
こんなに動揺するなんて。
頭のどこかではそう冷静に考えようとしているのに。
それと反比例するように
感情は重い渦を巻いていた。




「…柳さ〜ん!!!」

の声がした。
パタパタと懸命に走る足音。
短いスカートをヒラヒラさせて。


…。」


俺が名前を呼んだのとほぼ同時に俺は にギュっと頭から抱きしめられた。
なぜか は今にも泣きそうな目で俺をじっと見る。


「違うんですっ!!私と貞治くんは…」


ピクッ


貞治≠フ名前を聞いただけで俺の心はひどく動揺した。
もう理性も何もかもがかっ飛んだ気がした。


「何故貞治は名前で呼ぶ?!何故俺には敬語なんだ!!お前は何故そんな短いスカートで走ってくるんだ!!」

「…え…と。」

は困ったように頭を掻くと頬を赤らめた。
俺のポロシャツを掴む の手が心なしか強くなる。
二人の鼓動は一瞬1.38倍程速く脈を打つ。


「貞治くんは柳さんの応援中に出会って、柳さんの事色々教えてもらってただけで…」

「…。」

「…その…だって柳さん行っちゃうから。でも…なんとも思われていなくたって、私の気持ち勘違いされたくなくて。」

「…なに?」

「そ、その…好きです//」


好き?
誰が誰を?
この俺が聞き間違いをするなどありえない。
俺に は確かに『好き』と告げた。
俺が行ってしまうから思わず追いかけてきたともいった。
すなわち…。


俺は自分でも驚くくらいすぅっと表情が和らいだ気がした。


「…そうか。」

「あ!!!ご、ゴメンなさい!!柳さんに抱きついたりして!!」

「いや。かまわない。」


俺はそっと の腰にギュッと両手を回した。
しっかりと抱き寄せると の心拍数が先程の2.07倍になっていた。


「や、柳さん!!は、離してくださいっ//」

「あぁ。お前が俺のことを名前で呼んでくれたら離してやる。」

「え?」

「それに、これからは と呼ばせてもらう。」

「そ、それってどういう…」


そう言いかけた の唇に、俺は自分の唇を重ねた。
はビックリした様子で硬直していたが
唇を離すととたんに、真っ赤に顔を染め上げた。


「俺も好きだという事だ。」



俺の頭の中をバクらせてしまうくらい。
君という小さな存在は
俺の精神(なか)では相当大きい。












を応援席に送ってから、俺は自分の席に戻ろうとした。

「教授。」

「…博士。」

呼び止められて、振り返ると貞治がおかしそうに笑っていた。


「誤解だったろ。 ちゃんは、俺がお前のデーターを取っているときに会ったんだ。彼女の気持ちをそのとき聞いた。」

「貞治…お前も人が悪いな。」

「俺は、試合に勝って勝負に負けたからね。」

「?どういうことだ。」

「再戦のときはテニスも恋も負けないという事だよ。」

「はは〜ん。貞治は俺に彼女が出来て羨ましいのか。」

「な!!!!お、俺はお前の恋のキューピットを買って出てやったというのに!!!!」


仕方がない。
今度は、俺が恋のキューピット≠ナもしてやるか。
もちろん面白いからな。








玲央さんの6700番キリリクで書かせて頂いた柳VS乾夢。
VSになっているのか心配…。
蓮二さんは真田の恋のキューピットもしてるに違いないと思う。