「あーぁ、降ってきちゃったよ。」


梅雨前線。
六月のお天気は気分屋でちょっと困る。

まるで予測不能なのようだ。

そう思いながら は校舎の玄関の軒下から空を眺めた。

グレイに染まった広い空からは
雨の雫がまるで巨大なシャワーのように校庭やコンクリートの上に降り注いでいた。



「このぶんだとテニス部はたぶん…」

「そうなんだよなぁ。雨のせいで練習中止になっちまって..あぁっ!マジ雨うぜぇっ!!」


背後から誰かに寄りかかられた感触がした。
ふりかえらなくても誰だかよくわかる。


聞き慣れた声。
聞きなれた口調。




「赤也くん…つ、冷たいっ!!濡れてるじゃないですかっ!つーかなんで寄りかかってん
の?!」


は視線を合わせずに雨空を見上げながら尋ねた。
赤也はけだるそうに目を開けるとぎゅっと に回している手の力を強めた。



「ん?テニスが出来なくて傷ついた心をこうやって彼女に癒してもらおうと思って。」

「『癒し(?)』より先にとにかく濡れた身体を拭いてこいっ!!風邪ひくでしょ!」

「…風邪ひいたら看病してくれる?」

「へ?」


予想外のコトバに は大動揺した。


「ば、馬鹿は風邪ひかないから赤也は風邪をひきませんって柳生先輩言ってたもん。」

「…柳生先輩ひでぇ…。」

「だいたい…これじゃ私まで風邪ひきになるんですケド。」

「そしたら俺がつきっきりで看病してやるからさ。」


そう耳元で言われて は耳たぶを真っ赤にして叫ぶ。


「あ〜ぁあっ!いい加減離してくださいっ!!帰れないでしょうが!!」

「ちぇ。本当はもう少しこのままが良かったけど。」


赤也がそう言って の背中から手を離すと、 は赤也のほうに向き直った。


「まったく本当に風邪ひいたらどうす…あ…かやくん?」

「ん?どうした?」


が唖然とした顔で赤也をみているので赤也は不思議そうに首をかしげた。


「…かっこいい。」

「は?何が?」


ぼそっとつぶやいた の声を赤也は聞き逃さなかった。


「…//ご、ごめん。今コッチみないで!!か、顔直視出来ない…。」

「はぁ?なんで?」



そう。

は不覚にも意表をつかれてしまった。

なぜなら赤也の髪は
いつもの見慣れたくせっ毛ではなくて
雨にうたれたためまっすぐめに髪が下がっていたのだった。




いつもとちがう雰囲気で。
心なしか色気まで漂っているような。


心音が、鼓動が響いているのを感じる。
身体中の血圧が急上昇している気がする。
みていられない。


今、赤也を直視したら確実に心停止で死ぬ!!
そうじゃなかったら超高血圧で死ぬ!!!
はそう確信した。




ちゃん、マジで風邪引いた?顔真っ赤だぜ。」


赤也はそう聞きながら、 のおでこにそっと自分のオデコをくっつけた。


「///ひゃっぁ!!」

「あ、かなり熱い…。」



ちげーよ!!
君が体温上げてるんでしょうが!!


そう突っ込みたいものの
はいっぱいいっぱいで声が言葉にならない。



「しゃーないなぁ。うち近いからとりあえず雨宿りに来る?」



…なんか作為を感じるんですけど。


そう思いつつ
やはり は脳内オーバーヒートで声が言葉にならないまま
意志とは裏腹にずるずると赤也の家に連れていかれてしまったのであった。




その後、赤也くんにメロってしまった がどうなったかは
言うまでもなく…。


ともかく、 が帰宅する頃には雨があがっていた。




「アレ? ちゃん、虹が出てるぜ。」

「わぁ〜!!。すっごい綺麗!!赤也くん知ってる?虹のふもとには宝物があるんだよ。」


がそう言うと赤也は少し驚いた顔をしたが、やがておかしそうに笑った。

「…やっべ〜!!迷信とかジンクスってあなどれねぇかもっ!!」

「え?」



は気がつかなかったけど
俺からみると
ちょうど虹のふもとにはあんたがいるようにみえたんだよ







テニスが出来なくて
内心悔しかったんだけど
今日は雨にサンキュー。








5000HIT御礼企画フリー夢。
今回のお話は『五月雨(立海編)』と対になっております。
情景が同じでも、人が変われば対応が違う気がして。


2004年6月12日     克己